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■明日の大人たちのためのお話

更新日2020/10/15

 

 

ツバメのツバクロ



ツバクロは、卵からかえったばかりのツバメの子どもです。ツバメは春になると、南の国からわたしたちの家のちかくにやって、お父さんツバメとお母さんツバメが力をあわせて、子どもを育てるための巣をつくります。

巣はだいたい、にんげんの家のやねの下のかべぎわとか、やねをささえているしっかりした木の上とかにつくります。にんげんの家につくるのは、そうすればカラスなどが人間をこわがって巣のあるところにちかよってこないからです。

にんげんもツバメがイネややさいを食べる虫をたくさんとって食べてくれることを知っているので、ツバメが家のやねの下に巣をつくってもおいはらったりしません。ツバメとにんげんは友だちなのです。ツバメはそのことを知っているので、にんげんの近くに巣をつくるのです。かしこいですね。

お父さんツバメとお母さんツバメは力をあわせて、田んぼの土とか、わらとか、かれた草の葉っぱとかを集めてきて、それを少しづつ口の中でつばとまぜあわせて巣をつくります。

ツバメのつばはネバネバしていますから、まぜあわせるとのりのようになって、木やかべにピタッとくっつきます。くっついた小さなどろのボールに、新しくつくったどろのボールをくっつけて、それをなんどもなんどもくりかえして、だんだん巣を大きくします。そうしてひらべったいおわんのような巣をつくると、お母さんツバメがそこに卵をうみます。

その卵をお母さんツバメがあたためます。卵をあたためているときはお母さんツバメは虫をとりに行けませんので、お父さんツバメが巣から外に飛んで行って、虫をとってお母さんツバメのところにはこびます。ステキなチームワークですね。

卵は三ことか、四ことか、五ことかいろいろです。しばらく温められると、卵の中でだんだんツバメのヒナの体ができていきます。もう卵のカラをわって外に出てもいいかな、と思えるくらいになると、ヒナはカラの中から、もう外に出たいようと、できたばかりのくちばしで中からカラをコンコンつつきます。

するとそのあいずをまっていたお母さんツバメが、外からつついてカラをわります。よこにはお父さんツバメもいます。そうしておやこでいっしょにカラをわって、ヒナは外にでてきます。ツバクロもそうやって卵のカラをわって外に出ました。出たとき、外があんまりまぶしかったので、ツバクロはびっくりしました。

ツバクロのきょうだいたちも同じようにカラをやぶって外に出ました。ヒナはぜんぶで四羽でした。カラから外に出て、春のあたたかいくうきをむねいっぱいにすったツバクロたちは、それからすぐに、おおきく口をあけました。

どうしてそうしたのかはわかりません。なんとなくそうしたくなったのです。すると、おおきくあけたその口に、お父さんがくちばしでなにかを入れてくれました。とってもおいしいごはんでした。ツバクロはすぐにごっくんとのみこみました。

きょうだいたちもおなじようにおおきく口をあけました。するとこんどは、巣から飛びたって行ったお母さんが、あっという間に虫をたくさんとって帰ってきて、巣のはじにとまって、ツバクロのとなりのきょうだいにごはんをあげました。あとの二羽のきょうだいたちもひっしで大きく口をあけます。

ツバメのヒナたちは、にんげんの赤ちゃんが生まれてすぐにお母さんのおっぱいを吸うように、大きくなるにはたくさんごはんを食べなくてはいけないことをだれに教えてもらわなくても知っているのです。ふしぎですね。

ツバクロはさっきごはんをもらって、おなかがふくれたように思ったので口を閉じていましたけれども、まだごはんをもらっていないきょうだいたちはひっしです。ですからお父さんもお母さんもすぐにまた虫を取りに飛びたちます。きょうだいはぜんぶで四羽もいるので、お父さんもお母さんもたいへんです。

でも早くごはんをもらいたくて、あんまり背のびをするのはキケンです。大きな口のある頭は体にくらべて重いので、うっかりすると巣から落ちてしまうことがあるからです。そうなったら大変です。お父さんもお母さんも、じめんに落ちてしまった子どもを巣にもどすことはできないからです。

落ちたヒナは死んでしまいます。かわいそうですね。だからヒナたちもうっかりしないように気をつけます、まっすぐ上に体をのばして上を向いて口を開けます。お父さんもお母さんも、ヒナたちが巣の外に体をのばさないように気をつけます。ですからごはんを食べるのは命がけですけれども、でも気をつけていれば大丈夫です。

そうしてツバクロたちはじゅんばんにごはんをもらいます。お父さんとお母さんは、一羽のヒナにごはんをあげると、すぐに巣からとびたって虫をとりにいきます。そうしてごはんをあげると、上を向いて大きな口を開けているほかのヒナたちのために、また虫を取りに行きます。さっきごはんをもらったばかりなのにツバクロも、なんだかまたおなかがすいてきました。大きくなるには、たくさん食べなくてはいけないのです。

そうしてセッセセッセと、お母さんツバメとお父さんツバメは子どもたちのために、田んぼやはたけなど、いろんなところを飛びまわって虫をとります。ツバメは飛ぶのがとても速いのです。しかもすばやくしんろをかえられます。きゅうカーブで飛んだり、いきなり下にむかったり上にまいあがったりします。ですから飛んでいる虫でもつかまえることができます。ツバメの飛ぶスピードは虫よりもずっとずっとはやいのです。

そうしてごはんをたくさんもらってツバクロたちはスクスクとおおきくなります。おおきくなるとツバクロたちがたべるりょうもふえるので、お父さんとお母さんは、もっともっとたくさん虫をとるために、そこらじゅうをとびまわります。

ツバメがそうしてドンドン虫をとってくれるので、おひゃくしょうさんたちはおおよろこびです。ツバメがとる虫のなかにはにんげんの血を吸う蚊もいます。だったらたくさんとってほしいですね。

 

そんなふうにしてたくさんたくさんごはんを食べるので、ツバクロたちはドンドン大きくなります。さいしょは体にほんの少しうぶ毛が生えているだけで、ほとんどはだかんぼですけれども、ドンドンごはんを食べると、すぐにいっぱい毛が生えてきて、三しゅうかんもすると、黒いはねもすっかり生えそろって、ツバメらしくなって、見た目は、もうあんまりお父さんツバメやお母さんツバメと変わらないくらいになります。ずいぶん早いですね。

そしてそうなると、こんどは巣から大空に向かって飛ぶれんしゅうをする日がやってきます。さいしょは巣のほんの近くにある木のえだとかでんせんまで、お父さんやお母さんといっしょに飛びます。ツバメは大きくなると飛べるようになるのです。ふしぎですね。

そうしてさいしょは少しずつ、そしてすぐに空たかく、そしてあちらこちらを飛びまわれるようになるのです。ツバメは冬のあいだは南のくにでくらします。ですから秋になるとみんなで南に向かって飛びたたなくてはなりません。遠い南のくにへのながいながい旅です。

ですからツバクロたちは、飛ぶれんしゅうをいっしょうけんめいします。ほらみんなでいっしょに飛ぶれんしゅうをするツバクロたちの歌が聞こえてきます。


 空を飛ぶのは楽しいな

 あっという間にここから向こう

 みんな後ろに消えていく

 早く飛ぶのはうれしいな

 

 風を切るのはうれしいな

 つばさをサッと動かして

 上にもいける下にもいける

 素早く飛ぶのは楽しいな

 

 ぼくらはツバメ

 ことし生まれたツバメの子

 もうすぐ南に向かってまっしぐら

 ぼくらはツバメツバメの子

 



-…つづく

 

 

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

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