のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第353回:恐怖の白い粉、アンチシュガー・キャンペーン

更新日2014/03/13



私たちは比較的よく旅行に出かけますし、アメリカ国内、ヨーロッパ、中南米、日本に住んだこともあります。それらの国々と比較すると、アメリカの物価、とりわけ農産物はとても安いです。味や品質を別にすれば、お米も日本よりズーッ安く、野菜、穀物も半額近いのではないかしら。アメリカはやはり農業大国です。パンを焼くための小麦粉の値段も日本の3分の1くらいです。

そして、ベラボーに安いのが砂糖と清涼飲料水です。バーゲンで缶入りコカコーラ12本パックを1ドル99セントで売っていたりします。コレでは中身を売っているというより、アルミ缶の値段にもならないのではないかと余計な心配をしたくなるほどです。コカコーラなどの清涼飲料水は水より安いので、イッタイゼンタイどんな水を使って清涼飲料水を造っているのだ…と疑いたくもなります。

そして、清涼飲料水には大量のお砂糖が入っています。最近では、お砂糖よりもっと安く水に解けやすいコーンシロップなどのフルクトス(fructose)を使うようになりました。お砂糖が悪役になり、肥満だけでなく心臓病、糖尿病、肝臓に障害をもたらすと言われてからもう何年にもなります。フルクトスもお砂糖と同罪です。

1年間にアメリカ人一人が食べたり、飲んだりするお砂糖の量は130ポンド=70キロほどにもなります。これだけお砂糖を摂っていて病気になるなと言う方がどうかしています。幸い、小中学校にある自動販売機から砂糖分の多い清涼飲料水、スナックお菓子をなくそうという運動が起こり、過分な砂糖を含むスナック、飲料水を置かない学校が増えてきました。

前のニューヨークの市長さん、マイケル・ブルームベルグ(Michael Bloomberg)は全世界で13番目の大金持ちでしたので、任期の終わり頃、矢でも鉄砲でも持って来いといった感じで、改革的な法案を通そうとしました。まず初めに、銃規制を全米で一番厳しくし、その後、健康問題、デブ対策に乗り出し、マクドナルド、バーガーキングなどのファーストフッドにカロリー表示を義務付け、健康に有害だと折り紙付きのサチャレイト脂肪使用を禁止しました。これはアメリカ全土に広がりました。

どういう理由からでしょう、コレだけ健康、身体に良いもの悪いものに敏感な日本で、スーパー悪役のサチャレイト脂肪の表示さえ義務付けられていないのが不思議でなりません。

そして、ブルームベルグさん、巨大なコカコーラ、ペプシコーラに挑戦したのです。まず、ニューヨーク市内のファーストフッド、映画館、レストランで16オンス(473ml)以上の清涼飲料水の販売を禁止しようとしたのです。スーパーマーケットで売られる分は対象になりません。473mlといえば、ほとんど2分の1リットルですから、大変な量ですが、アメリカのファーストフッドやレストランでは、うちのダンナさん曰く、"馬に飲ませる"ようなバカでかいコップにナミナミと注いでくれますし、お代わりは自由、タダのところが多いのです。

この法案は、例によって、アメリカの"自由"の名の下で潰されてしまいました。物資を流通させる自由、いかなるサイズのものでも買う自由を侵すなという訳です。そこに、デブになって心臓病で死ぬ自由も付け加えたいくらいです。

バークレー大学の教授で、お医者さんのロバート博士(Dr. Lusting Robert)はアンチシュガー・キャンペーンを盛んに繰り広げています。彼によると、フルクトスを含む砂糖はコカインと同じように身体に害を及ぼし、しかも麻薬のように常習性が強く、中毒になると言っています。巨大な清涼飲料水の会社相手に、ドン・キホーテ的な戦いを挑んでいるのです。

ニューヨークの前市長のブルームベルグさんやロバート博士の運動が徐々に知られ、様々な雑誌やテレビ番組で取り上げられるようになりました。今では本気で砂糖をタバコのように販売制限すべきだという論評まで出てきました。

私たちも、家に砂糖をまったく置かなくなってから何年も経ちます。その分だけ私たちが健康になったかどうか分かりませんが…。

お砂糖を使う使わないは法的な規制を待たなくても、自分でコントロールできる範囲のことだとは思いますが、どうでしょうか? と言いながら、食後に何時も煎茶に一かけらのダークチョコレートを楽しんでいるのですが…。これ、煎茶とダークチョコ、このコンビネーション、意外と似合いますよ。

 

 

第354回:歯並びと矯正歯科医さん

このコラムの感想を書く

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで

第351回:アメリカの銃規制法案
第352回:大人になれない子供たち、子離れしない親たち

■更新予定日:毎週木曜日