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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第304回:インターネットの授業と通信教育

更新日2013/03/28



インターネットは情報の革命と言われるくらい、素早く、広く、誰にでも利用できる優れた道具です。インターネットの価値を認めない人は、現代にまずいないでしょう。 絶大な存在で、私なども、パソコン、インターネットがなければ、研究も授業も不可能…とまでは言いませんが、かなり情報の収集を制限され、スピーディーに動けなくるでしょうね。小さな樽が飛ぶように文字を打つIBM電動タイプライターで論文を打っていたときが、大昔のことのように思えます。

私の勤める田舎の大学でさえも、インターネットで授業を受けられるコースを設けています。というより、言いだしっぺは私で、身の程も知らずに、言語学のインターネットのコースを数年前に開設してしまったのです。

今では、すべての分野でインターネットコースを開設しよう、ゆくゆくはインターネットコースを主体にした大学として売り出そう……というミーティングが開かれ、そのようなコース開設専門の会社(何にでも、すぐにお金儲けのための会社が出てくるものです)の人をキャンパスに呼んだりと、なんだか奇妙な方向へ向かいつつあります。

私の大学とは天と地ほどの開きのある、雲の上の有名大学、MIT(マサチューセッツ工科大学)とか、ハーバード大学、スタンフォード大学、カルフォルニア・バークレー校などでは、ビデオ授業を無料で配信しています。天文学的な授業料(MITで5万ドルくらいです)を払わなくても、インターネットの授業で同じ知識が得られる……と一瞬、思わせます。

確かに、インターネットコースは便利で安い手段なのですが、それなのにどうしてわざわざ高い授業料を払って、実際の大学に出向く学生が大勢いるのか……という疑問が湧くのは当然のことでしょう。

使いようによっては便利な道具には大きな欠点があります。インターネットの授業では、多くの生徒さんと議論を重ね、グループで何かを継続的に研究していくことが難しいことです。おまけに、一番大切な人的関係、教授と研究者、大学院生との間を緊密にして、次の研究テーマなど、将来に向けた発展が期待できません。

それに、化学の実験、生物の解剖など、いくら映像を見ても、ゲーム感覚でしかなく、手を血に染めて解剖をしなければ得られないものがたくさんあります。これはほんの一部ですが、インターネットの授業には限度があるのです。畳の上で水泳の練習をするようなものです。

自分で作っておきながら、というのか、自分でインターネットコースを作り、教えたことがあるからこそ言えるのですが、インターネットのコースで勉強するのは、実際大学に通って単位を取るより、何倍もズーッと大変なのです。気楽に自由な時間にアクセスすればよい…と思ってインターネットの授業をとっている人は、軒並みに失敗し、途中でドロップアウトするか、F(落第)になっています。

インターネットの授業は時間を決めて、余程真剣に取り組まないと、成果が上がりません。インターネットコースの学生さんにいつも、初めに言うことは、普通の授業に出席するより、もっともっと勉強しなければコースを無事終了できませんよ…覚悟の程を…と繰り返します。

もっとも、授業料さえ払えば、いい加減なインターネット大学を卒業できることも確かですし、同時に誰か身代わりになって、レポートを書いたり、討論に参加していても、こちらでチェックできませんから、インターネット専門の大学がショーバイとして成り立つなら、身代わり生徒さんショーバイも成り立つ可能性があります。誰か他の人が、生徒さんのパスワードを打ち込んでも、本人かどうかを確認できません。人間本人より、パスワードを信用してしまうのです。

コンピューター、インタネットは万能と言うには程遠い道具です。とりわけ、秘密保持に関しては、凡そ不向きで、一旦、コンピューターに入れた情報は、どのような日替わりパスワードを使ってみたところで、天才的なハッカーなら、容易に入り込めることは、ジュリアン・アサンジのウィキーリークス事件や、CIA最悪の汚点になった、エイムススパイ事件で明らかです。

そんな、頼りない道具なのですから、それを使った、インターネットコースは一昔前にあった、郵便でやり取りする、通信教育をチョットスピィーディーにした程度のことだと考える方が、理屈に合っているでしょうね。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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