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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第203回:現代の三種の神器

更新日2011/03/31

前にも書きましたが、私の車は大学の駐車場でも目立つほど古く、ボロです。私ほどではないにしても、先生たちの車は全般的に安い大衆車で、しかもよく今までがんばっているなーと、励ましたくなるような古い車が圧倒的に多いのに反し、生徒さんたちのはピカピカの最新モデルの車です。それはもう歴然としていて、古くて汚い車だなーと思っていたら、生物学の教授の車でしたし、私の車といい線行っていると思ったら、案の定、スペイン語の先生の車でした。

もともと、大学の先生たちは車を単なる足としか考えていないのでしょう、私同様、車はどうにか動けばそれで良いと思っているフシが濃厚です。それに比べ、生徒さんたちはどこからどうやってそんなお金を手に入れるのでしょう、皆が皆というわけではありませんが、新しくカッコイイ車を乗り回しているのです。きっと親はボロ車に乗っていても、我が子には新車を買い与えているのかもしれませんね。

「先生、どうして携帯電話を持たないのですか?」と、何度か生徒さんに訊ねられました。私の生徒さんはまず100%、携帯電話を持っていると言ってよいでしょう。もう彼らにとっては靴を履くのと同じように、携帯電話なしでは歩くことができなくなっているようなのです。しかも、生徒さんが持ち歩いている携帯はあらゆる機能が付いた小さなパソコンで、とても高価なモノです。先生たちはといえば、石器時代とまで言いませんが、前世紀の遺物のような、ボタンを押して通話するだけのシロモノなのです。と、そんな携帯すら持たない私が偉そうなことを言えませんが…。

携帯電話はあればそれは便利でしょうけど、逆に、いつ、どこにいても電話がかかってくる煩わしさがあります。そして、さしたる急用でもないのに一々対応しなければならないのはとても面倒なことです。まだ携帯電話は、私にとって便利さよりも嫌いな面の方が多いといっても言いでしょうか。うまいことに私たちが住んでいる山まで携帯の電波が届きませんから、携帯を持たない良い言い訳になっています。

この静かな山小屋に携帯電話ほど似合わないものはありません。テレビも最近観なくなってしまいました。テレビの電波が山の家まで届かないのか、天気の良い日にやっと一つのチャンネルが入ることは入るのですが、その唯一どうにか受信できるABCチャネルのニュースは悲惨なことになっています。ワールドニューズと銘打ってはいますが、元々ゴシップの記者、インタヴューアーだった女性をニュースキャスターに据え、今ではワールドゴシップニューズになってしまい、ただの人気取り番組になってしまったのです。

かつて、テレビ界にも、自分のテレビ局、親会社や大統領を名指しで批難するピーター・ジニングやトム・ブロコフのような優れたニュースキャターが活躍していたのですが、4大チャネルすべてが"受け"とセンセーショナリズムばかりを狙ったニューズ番組を放映するようになってしまいました。

というわけで、テレビは場所を取るだけの(私のテレビは私の親が初めて持った初期のカラーテレビで、奥行きがズローンと深く、80センチはあろうかというシロモノです)不要な家具になってしまいました。

元々、ダンナさんに付き合って…と言うわけではありませんが(私も存分に楽しみましたが)、水上生活を20年近くしていたとき、もちろんテレビも携帯電話も持たずに暮らしていましたから、今、オカに上がったからといって、3種の神器のうちの二つ、テレビと携帯電話がなくても不便は感じません。

そしてもう一つの神器はパソコンですが、これは教師という仕事上やむを得ず使っています。それどころか、パソコンなしには授業を進められませんし、試験問題を作ったり、採点もできません。年に一、二度出る学会の動向や新く出た論文をチェックしたり読んだり、などなど、仕事に不可欠な道具になってしまいました。とは言っても、私はEメールもFACEBOOKも大嫌いで、キーボードに触るくらいなら、畑のために鶏糞、馬糞を捏ねている方がズーッとましです。

サラリーマンが定年退職した日に目覚まし時計をゴミとして捨てるように、私の夢は仕事を辞める日にパソコンを崖の上からでもスパッと放り投げて捨てることです。 

長い間、仙人と一緒に暮らしていると自然私も仙女化?してきたのかしら、これが羽衣を翻す天女になるのならいいのですが…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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