第236回:組織化されない政治運動と"Twitter"
座り込み運動が全世界に広がっています。ニューヨークの金融の牙城ウォールストリートでは、もうかれこれ1ヶ月以上、寒空の下、寝泊り、キャンプ生活をし、人口の1%が経済を牛耳るヤリカタに抗議しています。
この運動は世界的な拡がりを見せ、82ヵ国、900の都市で続けられています。明らかに、今の資本主義のあり方に抗議しているのですが、今は昔、過去の歴史に埋もれた共産主義の国々の指導者たちが知ったら小躍して喜んだことでしょう。"だから言ったでしょう。資本主義は間違っている。社会の富を1%の人間が独占する、独占を許すような資本主義は必ず行き詰る…"とでも言うでしょうか。
1%といえば100人に一人ですから、結構たくさんのスーパーリッチが経済を牛耳っていることになるのですが、どういう訳でしょう? 私の周りにその"1%"に属する人は見当たりません。
大学の生徒さんは論外としても、もともと貧乏所帯の大学ですから、大学の先生、職員 総勢500~600人はいるでしょうけど、どう見ても、超お金持ちエリートの1%に入る人がいそうもありません。
割合でいくと、500~600人の職員のなかに5、6人は裕福層がいてもよさそうなのですが、きっとスーパーリッチの方々は、私のような下々の人とは決して交わらない、別のサークルで生きているんでしょうね。
世界中に広がっているデモは、もちろんリッチならざる人々が主体です。アメリカの社会運動の歴史には様々なデモ活動がありました。私の大学時代、ベトナム戦争反対デモが盛んに行なわれ、私も何度か参加した経験があります。
そのようなデモ、社会運動には、いつもオーガナイザーというのかしら、デモを組織するリーダー的な役割の人がいて、また、既存の組合、学生連盟、宗教団体などがバックアップしているのが普通です。
でも今回、世界中に広がっている座り込みやデモには、特定の団体やリーダーがいないようなのです。一応、スポークスマン的な存在のヨータム・マロンという若者がいますが、全米、全世界のデモを組織しているわけではありません。
全米に広がっているこのようなデモ、座り込みに同情を示し、彼らの行動は理解できる……としている人が65%以上いるという統計が出ています。
こんなデモに、マイケル・ムーア(ドキュメンタリー映画監督)、スーザン・サランドンやアレック・ボールドウィン(映画俳優)など、有名なセレブも参加しています。彼らの収入は1%のクラスだと思うのですが…。
政治運動、社会運動にも新しい時代が来たことは確かなようです。誰も予想しなかった、携帯電話、インターネット時代の社会運動が誕生したのです。世界的な拡がりを見せたこの社会運動は"Twitter"が起こしたといっても良いでしょう。
ニューヨークだけで逮捕者は1,000人を越し、逮捕の際、乱暴な警察のやり方は、これまた携帯電話のカメラでばっちり撮られ、You
Tubeに載り、それを4大テレビ局が流すのですから、お巡りさんもきっと、「仕事がやりにくくなったな~」と嘆いていることでしょうね。携帯電話のカメラは、警察の最大の敵になったのです。
今回の運動のもう一つの特徴は、オーガナイザーがおらず、リーダーもいないのですから、5%の給料アップ……などのような具体的な要求、改革案がないことです。
確かに、スーパーリッチは益々リッチになり、貧乏人はさらにどん底に落ちていく、貧富の差が絶望的に開いていく現在の経済の在り方は間違っている……と多くの人は思っていることでしょう。それでは、どうすればいいのか、具体的に金融界のどこをどのようにし、税制をどうすれば良いかという原案が聞こえてこないのです。
このような新世代の社会運動は、自然発生的に生まれたことに特徴と意義があるのでしょうね。誰が組織したわけでもないのに、個人個人が"Twitter"を見て、共鳴し、よし私も参加しようと集まった集団ですから、それだけに純粋とも言えますが、同時に壊れ易い脆さも持っているようにも見えます。
日本にも過去の歴史において、"世直し"の運動が自然発生的に何度も起こっていますが、いつも官憲に制圧されていますし、成功した"百姓一揆"は皆無といってよいでしょう。
ところが今の"世直し"運動は、強力なリーダーを必要とせず、横のつながりを"Twitter"という武器を使って、アラブの国々で起こったように政府を転覆させたのですから、正に新しい時代を迎えたと言ってよいでしょう。
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