第57回:【付録】日本人ギャンブラー列伝(番外編)
更新日2003/04/17
ラスベガスで商売していると、やはり日本人ギャンブラーのお客に出会うことが多い。日本から来る観光客は、一攫千金の夢を求めてカジノで勝負をするのだが、実際のところは、300ドル程度の予算が平均であり、パチンコ感覚でスロットでプレーする人が殆どである。
しかし、毎回数万ドルを資金に勝負をする“ハイローラー”と呼ばれる人たちも存在する。日本の政治家や、芸能人がベガスにきて数千万円負けたという話をよく耳にすることがあるが、実際には勝った話は少ない。私が射撃のツアーで出会ったお客の中にも凄腕の日本人ギャンブラーも中には存在した。
30代前半のS氏は、東京でコンピューターのソフト会社を経営している。彼にとって今回が初めてのラスベガスであった。私に開口一番、
「何故、ホテル代を払わなくてもいいの?…」
と質問をしてきた。私は、恐らくこのお客がハイローラーなので、コンプ(ホテルが提供する無料サービス)が出たのだと思い、昨夜いくらカジノで使ったのかを聞いてみると、表情も変えずに一言、
「15万ドル。(2千万円)」
という返事が返ってきた。彼は、英語もよく分からないのに、ベネチアンホテルの奥のVIPルームで一人ルーレットをやったらしいのだ。
最近、日本の不況とは裏腹に、商売に成功した20代から30代の若い方たちがベガスでお金を豪快に使うケースが多い。勿論、彼らは日本で高級マンションに住み、ベンツなどの高級車を乗り回している。しかし、日本ではギャンブルでそんな大金を使う場所がないので、本場ベガスに乗り込んでくるのだ。
翌日、彼はバカラで3,500万円勝ち、1,500万円の利益を上げて平然と帰っていった。凄まじい勝負運である。彼曰く、
「ビジネスもギャンブルと同じ。」
大勝した彼には後日、日本からラスベガスまでのファースト・クラスの無料航空券がホテルから贈られたらしい…。
名古屋で、ゲームセンターのルーレットのディーラーをしているT氏は、半年に一度ベガスに“出稼ぎ”にやってくる。彼は、頭の中にルーレットの数字が完全に配置されているので、カジノのディーラーが玉を投げ入れるタイミングで、その大体の出目が分かると言う。T氏の場合は技術力があるため、大勝するとカジノから追い出しを喰らうので、毎回の勝ちは数十万円に抑えるらしい。何とも羨ましい話である。
大阪でゲーム機の卸売りをしているM氏は、毎月仕事でベガスにくる。彼は、ブラックジャックのプロであり、技術的な勝負師である。彼もすべてのトランプのカードを頭の中に記憶しているので、負けることがないらしい。彼は素人の多いレートの低いテーブルを選ばず、100ドル以上のレートの高いテーブルに座る。ブラックジャックは、一緒にプレーする人によっても結果が左右されるからだ。
ラスベガスのカジノで大勝ちする人たちは、すべてテーブルゲームで勝負している。数十億円が当たる大当たり累算式のメガバックス・スロットマシーンはあまりに有名だが、天文学的確率の偶然性に左右されるので、ギャンブルのプロたちは決して手を出さない。
通常のスロットマシンもあるが、パチスロのようにいくら投入したら出るという保証はない。知り合いのN氏は、1ドルのスロットマシンで一度、ジャックポット(大当たり)が出るまで5時間かけてお金を突っ込んだことがある。が、5時間かけて150万円を投入してようやくそれを引き当てた。しかし、その払い戻し金額は、僅か50万円程度であった…。

ラスベガスに住む日本人にもギャンブラーは多い。レストランやツアーガイドで生計を立てている人でも、給料の大半をカジノに投資してしまう人がいるのも現実だ。中には、自称プロで、ギャンブル収入だけで生活していると豪語していた人もいたが、私の知る限り、すべて行方不明になってしまった。
恐らく、儲け過ぎてカジノから追い出されたのではなく、借金のための夜逃げであろう。そういう点では、24時間何時でもギャンブルできる環境よりも、日本からきて時間的な制限を受けてギャンブルする人たちの方が、有利なのかも知れない。
ラスベガスは大人のための街である。最近、各ホテルカジノの運営する遊園地やアトラクション、ショー、ショッピング・センターなどを目当てに訪れる家族連れの姿も多くなった。しかし、この街において、未成年者は何かと不自由なので、訪問を避けた方が無難かも知れない。
特に日本人は、若く見られがちである。21歳以上だと証明できるIDを持っていないと、すぐにカジノから追い出される。日本と違い、タバコ、酒、ギャンブルの未成年に対する扱いは徹底している。特に、小学生以下の子供などをラスベガスに連れてくる親を見ると、それは親のエゴのように思えて、可哀想で仕方ない。
ベガスにきてスロット以外のギャンブルする予定の方は、テーブルゲームのルールくらいは、予習しておいた方がいい。治安のよいカジノの中でも、一緒のテーブルにいるギャンブラーたちは、お金が絡んでいるので、あなたの失敗を大目に見てはくれないのだ。
いろいろな夢が交錯するラスベガスは、24時間眠らない大人の自由空間である。そんな砂漠の中のオアシスは、未だに一攫千金のアメリカン・ドリームを人々に提供続けている。
第58回:あとがき:チャレンジ・スピリット~日本の若者たちへ
