方丈記 第十四回
また、静かな夜には、窓から月を眺めて故人を偲び、あるいは猿の鳴き声を聴いて、断腸という言葉のもととなった古の中国の話などを思い出し、思わずこぼした涙で袖を濡らしたりもする。草むらの蛍の光は、まるで遠く遥かで薪を焚くかがり火の火の粉のようでもあり、また暁に降る雨の音は、あたかも嵐の風に騒めく木の葉のよう。
山鳥が、ほろほろと鳴くの聴けば、もしかしたらあれは母の声か父の声かとも思ったり。峰の鹿が、ほんの近くにまで来ているのを見れば、ずいぶんと俗世間から離れた暮らしをしていることをあらためて知る。
あるいは朝早くに起きた時などには、灰の中の炭の埋もれ火を掻き熾(おこ)して、早起きの老人の友とする。
周囲の山は、とくに恐ろしいことなど何もない山なので、フクロウの声にあわれを感じたりなどして、山の中の暮らしには、四季折々の景色の移り変わりや、日ごとに織りなされる趣に尽きることがない。ましてや、もしも、ものごとを深く感じ、深く思う人であれば、あるいは、そうした趣のことをより深くより良く知る人であればなおさら、このようなことばかりではなくて、もっといろいろなことに思いをはせるのだろうと想ったりもする。
※文中の色文字は鴨長明が用いた用語をそのまま用いています。
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