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第12回:サンドクリークへの旅 その1

更新日2023/03/30

 

9月28日のデンバーでの和平会議は成功裏に終わったと評価しても良いだろう。ただ、アメリカ側が協定を守らず、約束を全く守らなかった。

インディアン側の代表たち、シャイアン族系のブラック・ケトル、ブルベアー、ホワイト・アンテロープらをこの会議に連れてきたのは、穏健派のウェインコップ少佐だった。その時に撮った写真『第11回:シヴィングトンという男 その2』に掲載した。

ウェインスコップ少佐は主だったシャイアン族の酋長を和平交渉の席に着かせ、第一歩として捕虜交換交渉に乗り出した。彼はこの会議に精魂を傾け、アメリカ合衆国とインディアンの争いを終わらせようとしていた。その席で、ブルベアーはシャイアン族が白人襲撃に関与していたことを認め、ブラック・ケトルはさらに自分たち言わば和平派はアラパホ族など他の種族も混じっている若者混成部隊のテロ部族集団 “ドッグソルジャー”をコントロールできないとまで言明している。この和平交渉の様子は非公式ではあるが、『ロッキーマウンテン・ニューズ』の主幹ビル・バイヤーが立ち合い、書き残しているので知られている。

No.12-01
エドワード・ウェインコップ
1836年6月9日、フィラデルフィア生まれ。彼は言わば、東部のエリートクラスの出で、
ヒューマニズムを信奉する環境で育った。1858年、彼が22歳の時に当時カンサス領域
(のちにコロラド領域)であったアラパホ郡のシェリフに任命されている。
南北戦争ではコロラド第一義勇騎兵隊を率いて戦い、
兵士、上官だけでなく、広く住民からも尊敬される人格者だったようだ。

ブラック・ケトルのシャイアン族の中にも多くの分派があり、自分の統率力が及ばないという率直な意見を聞いたシヴィングトンは、「畜生め、こんなインディアンに同情するヤツがいるか。私はインディアンを殺すために、ここに来ているのだ。神はインディアンを絶滅する名誉を私に与えたもうた」と、ハナから和平交渉を無駄だとしている。

自分の部族も制御できない酋長と交渉するのは時間の無駄だというわけだ。もっとも、彼自身が単身、インディアン部落に乗り込んで、和平交渉に乗り出すだけのガッツも交渉力もないのだが…。ウェインコップがインディアン部落に入り込み、和平交渉を成立させようとしていたのは対照的だ。コロラド領域の知事エヴァンスも、政治家的に言明を避けてはいたが、シヴィングトンの対インディアン強硬策を暗黙の内に後押ししていた節がある。

No.12-02
話は前後するが、コロラド義勇軍募集のポスターを見つけたので、ここに掲載する。
南北戦争中であるにも拘らず、ハッキリと“インディアン討伐のため”と謳っている。
南北戦争を勝利に導くため…とは全く記していない。
ポスターの日付は1864年08月13日になっているので、 サンドクリーク虐殺事件の3ヵ月少々前のことだ。
シヴィングトンが率いていた騎兵隊はそんな即成の軍団だった。

シヴィングトンとウェイコップ、それに知事のエヴァンスが、カーティス将軍に送った手紙、電報で彼らの立場、意見を知ることができる。シヴィングトンはそのまま第三義勇騎兵隊を率い、ウェインコップは彼のあまりにもヤワなインディアン対策のため、いわば左遷のようなカタチで、カンサスのフォート・ライリーに移動させられた。それが11月の初旬のことで、サンドクリークの虐殺の20日前のことだった。

この時点で、エヴァンスとシヴィングトンがコロラドの軍団を支配することになり、サンドクリークの事件は起こるべくして起こったと言って良いだろう。

シヴィングトンとウェインコップはすべてにおいて対照的だった。軍籍上がりのウェインコップの方が人道主義者であり、兵士に厳しかったが、同時に尊敬されていたのに対し、シヴィングトンはキリスト教メゾジスト派の伝道師、宣教師でありながら、インディアン殲滅を唱える過激な軍、力を信奉していた。また、シヴィングトンは全くアルコールを口にしなかったのに対し、痩せノッポのウェイコップの方が大酒呑みだった。

ブラック・ケトルが率いるシャイアン族が、フォート・ライアンから食糧と水を確保するという空約束でサンドクリークに移動させられたのは10月の半ばだった。フォート・ライアンからサンドクリークまでは直線距離で50キロ少々離れている。途中に枯れたクリークが横たわっているにしろ、恐ろしいほど真っ平らな砂地なのだ。

サンドクリークに移動させられたシャイアン族は、こんな水もない、何の作物も育てることができない、乾燥しきった土地、全く使い物にならない土地、白人たちが誰も住みたがらない、住めない土地に押し込められたのだ。

No.12-03 
ロッキーの東側は緩やかに畝った高原大地が広がっている。
それがロッキーを離れるにしたがい、真っ平らな平原に変わっていく。
360度、これ程平らな大地を目にしたことがない。

サンドクリークという命名も誤解を招く。歴史地図や縮尺の大きな地図でクリークを水色に染めているモノさえある。クリーク、小川とはかけ離れた砂地のワダチが蛇行しているだけで、水は全く流れていない。その地を深く掘ると、僅かな水が出る。湿った土に突き当たると言われているが、もちろんそんな量の水では生活できない。ましてや、農耕など不可能だ。もちろん、白人が供給する契約だった食糧の補給も全くなされていない。

-…つづく

 

 

第13回:サンドクリークへの旅 その2

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第1回:消えゆくインディアン文化
第2回:意外に古いインディアンのアメリカ大陸移住
第3回:インディアンの社会 その1
第4回:インディアンの社会 その2
第5回:サンドクリーク前夜 その1
第6回:サンドクリーク前夜 その2
第7回:サンドクリーク前夜 その3
第8回:サンドクリーク前夜 その4
第9回:サンドクリーク前夜 その5
第10回:シヴィングトンという男 その1
第11回:シヴィングトンという男 その2

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