のらり 大好評連載中   
 
■現代語訳『枕草子』
  ~清少納言の『枕草子』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳
更新日2015/06/11



枕草子  第十回

その八の四  たまたまくつろいでいた時に

 たまたまくつろいでいた時に、誰かが、大進さまが急いでお話ししたいことがあるそうです、と私に伝えに来たのを、中宮さまがお聞きになられて、おやまあ、またどんなことを言ってあなたに笑われようというのでしょう、とおっしゃられたのがとても可笑しかった。

 それでも中宮さまが、行って聞いていらっしゃい、とおっしゃられたので、わざわざ出向いて行きました。

 すると生昌さまは、例の口調で、このまえの門の一件のことだけどね、その話を兄の中納言さまにしたんだけど、たいそう感心しなさって、なんとか、よい折り、その方の心が穏やかな時に、静かにお話をしたいものだなと、申されておりました、と言う。

 話はそれだけで、それ以外には、特に話など無い様子。もしかしたら、夜に部屋にやってきた時の話かなと、ちょっとドキドキしてもいたのに、そんなことではなくて、こんどまた静かにお話をするために、お部屋におうかがいします。と言っただけで行ってしまった。

 戻ってくると中宮さまが、ねえ、どんなことでした、とおっしゃられたので、そのままお伝えいたしました。

 側にいた人たちは、わざわざ急いでおこし下さいと言って人を呼んでおきながら、そんなことでしたら、わざわざ呼びつけたりなどしなくてもすむ話じゃありませんか。何も改まってお呼びだてなどせず、何かの折りに部屋の隅の方で何気なくとか、そうでなくとも、あなたがお部屋でくつろいでいる時にやってきて言えばそれで済むことじゃありませんか、と生昌さまを馬鹿にした。

 すると、中宮さまは、そうじゃありませんよ。生昌さまは自分が兄上の中納言さまのことをたいそう尊敬なさっていらっしゃいますから、その方があなたを褒めたのが嬉しくて、わざわざそのことを、急いでお伝えしようとなさったのですよ、とおっしゃられたのは、ほんとうにお優しくて素敵なことでした。

 

※文中の色文字清少納言が用いた用語をそのまま用いています。

 

 

 

 


このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 


谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
著者にメールを送る

詩人、ヴィジョンアーキテクト。言葉、視覚芸術、建築、音楽の、四つの表現空間を舞台に、多彩で複合的なクリエイティヴ・表現活動を自在 に繰り広げる現代のルネサンスマン。著書として『アトランティス・ ロック大陸』『鏡の向こうのつづれ織り』『空間構想事始』『ドレの神 曲』など。スペースワークスとして『東京銀座資生堂ビル』『LA ZONA Kawakasi Plaza』『レストランikra』などがある。
Elia's Web Site [E.C.S]

■連載完了コラム
現代語訳『方丈記』~鴨長明の『方丈記』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語訳に翻訳 [全18回]

現代語訳『風姿花伝』~世阿弥の『風姿花伝』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳 [全63回]

岩の記憶、風の夢~my United Stars of Atlantis [全57回]

もう一つの世界との対話~谷口江里也と海藤春樹のイメージトリップ [全24回]

鏡の向こうのつづれ織り~谷口江里也のとっておきのクリエイティヴ時空 [全24回]


随想『奥の細道』という試み ~谷口江里也が芭蕉を表現哲学詩人の心で読み解くクリエイティヴ・トリップ [全48回]


バックナンバー

 

■更新予定日:毎週木曜日