枕草子 第十回
その八の四 たまたまくつろいでいた時に
たまたまくつろいでいた時に、誰かが、大進さまが急いでお話ししたいことがあるそうです、と私に伝えに来たのを、中宮さまがお聞きになられて、おやまあ、またどんなことを言ってあなたに笑われようというのでしょう、とおっしゃられたのがとても可笑しかった。
それでも中宮さまが、行って聞いていらっしゃい、とおっしゃられたので、わざわざ出向いて行きました。
すると生昌さまは、例の口調で、このまえの門の一件のことだけどね、その話を兄の中納言さまにしたんだけど、たいそう感心しなさって、なんとか、よい折り、その方の心が穏やかな時に、静かにお話をしたいものだなと、申されておりました、と言う。
話はそれだけで、それ以外には、特に話など無い様子。もしかしたら、夜に部屋にやってきた時の話かなと、ちょっとドキドキしてもいたのに、そんなことではなくて、こんどまた静かにお話をするために、お部屋におうかがいします。と言っただけで行ってしまった。
戻ってくると中宮さまが、ねえ、どんなことでした、とおっしゃられたので、そのままお伝えいたしました。
側にいた人たちは、わざわざ急いでおこし下さいと言って人を呼んでおきながら、そんなことでしたら、わざわざ呼びつけたりなどしなくてもすむ話じゃありませんか。何も改まってお呼びだてなどせず、何かの折りに部屋の隅の方で何気なくとか、そうでなくとも、あなたがお部屋でくつろいでいる時にやってきて言えばそれで済むことじゃありませんか、と生昌さまを馬鹿にした。
すると、中宮さまは、そうじゃありませんよ。生昌さまは自分が兄上の中納言さまのことをたいそう尊敬なさっていらっしゃいますから、その方があなたを褒めたのが嬉しくて、わざわざそのことを、急いでお伝えしようとなさったのですよ、とおっしゃられたのは、ほんとうにお優しくて素敵なことでした。
※文中の色文字は清少納言が用いた用語をそのまま用いています。
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