枕草子 第十七回
市は、辰(たつ)の市
市は、たつの市、さとの市、海石榴(つば)市など、大和には市のついた町がたくさんあるけれども、長谷寺にお参りをした人が、必ずのようにこの地に泊るのは、観音さまとのご縁を大切にしたいという、特別の気持があるからだろう。ほかにもこのあたりには、おふさの市や、しかまの市や、もちろん飛鳥の市もある。
峰といえば
峰といえば、ゆづる葉の峰、阿弥陀の峰、そしていやたかの峰。
原には
原には、みかの原、あしたの原、園原なんていうのもある。
淵には
淵には、かしこ淵というのがあるけれども、一体どういう気持で、どなたがそうと教えて、そんな名前になったのだろう。青色の淵なんていうのも面白い。まるで蔵人が着るお召しのよう。ほかにも、隠れの淵や、いな淵なんていうのもあって面白い。
海といえば
琵琶湖のみずうみ、与謝の海、そして、かはふちの海。
陵には
陵みささぎには、うぐいすの陵、かじはぎの陵、そして、あめの陵などがあって、どれも歌に歌われして風情がある。
渡りといえば
渡りといえば、しかすがの渡り、こりずまの渡り、そして水はしの渡りなど。
たちといえば
たちといえば玉造(たまつくり)。どんなものにも、それらしい言葉や場所が、きまって付いていて、本当に風情がある。
立派な建物といえば
立派な建物といえば、まずは近衛の御門。そして二条院。みかい、一条も良い。染殿の宮、清和院、菅原の院、冷戦院、閑院、朱雀院、小野の宮、紅梅殿、そして県(あがた)の井戸殿。そして竹三条院や、小八条院や、小一条の院なども素晴らしい。
※文中の色文字は清少納言が用いた用語をそのまま用いています。
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