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■よりみち~編集後記

 

更新日2012/03/01


3.11が近づいている。もう1年が早くも経過しようとしている。震災からの復興、福島原発事故の処理など、問題山積みのまま、あっと言う間の1年である。出てくる話は政府の不甲斐なさの話題ばかりで、すべての対応が遅れている。未だに震災復興計画の青写真すら見えてきていない。原発の問題も、今後どうするのかも全く道筋さえもきまっていない状態である。日本人の忍耐強さ、ルールを守る国民性、災害時にも冷静でパニックなど起こさない東北人の強さだけが世界中にクローズアップされたが、政府の原発事故対応の杜撰さや東電の無責任さ、そして原子力村に住む学者や役人たちの無能さや日和見主義がどんどんと明らかにされ、海外からの批判の的となってしまっている。アメリカからは3.11の原発事故の際、メルトダウンが確実に起きているのだから80km圏外へ避難勧告を出すべきだとのアドバイスを受けており、それを政府が拒否したこと、「現時点ですぐには健康に影響は出ない」という言葉で安全だとウソを言い続けていたわけで、メルトダウンまでも隠蔽しようとしていた政府の対応は今考えるととても恐ろしいことをやっていたものだ。すべてが10年後にその結果がやってくるわけで、10年後の健康被害の影響がとても怖い。
そして、問題の瓦礫である。瓦礫の処理は焼却することが法律で決まっているらしい。震災の現場では焼却施設も震災で消えている場所が多いので、全く瓦礫処理が追いついていないわけで、そこで他県での瓦礫処理受け入れを要請しているが、どの県も放射能問題を言い訳にして、瓦礫処理の受け入れを拒否しており、東京都はすでに受け入れて焼却まで実施しているが、受け入れを表明しているのは数県にすぎない状況で、瓦礫処理も手付かずの状態では復興などできるはずがない。以前から植物生態学者の宮脇昭・横浜国立大学名誉教授が提唱する「震災がれきを活用した森の防波堤構想」をどうして政府や自治体が真剣に検討しないのか不思議でならない。宮脇教授曰く、「海岸部に穴を掘り、瓦礫と土を混ぜ、かまぼこ状のほっこりしたマウンド(土塁)を築く。そこに、その土地の本来の樹種である潜在自然植生の木を選んで苗を植えていけば、10~20年で防災・環境保全林が海岸に沿って生まれる。この森では個々の樹木は世代交代しても、森全体として9000年は長持ちする持続可能な生態系になる」。「瓦礫を使うことにこそ意味がある。根が浅いマツなどと違って常緑広葉樹は根が深く地中に入る。根は息をしており、生育には土壌の通気性が大事だ。土と瓦礫を混ぜることで通気性のよい土になる。木材など有機性の廃棄物はゆっくり分解し樹木の養分となる。木の根はセメントのかたまりなどをしっかり抱いて深く安定した根を張る。毒性のあるものやプラスチックなどは事前に取り除いておく」と、瓦礫の有効性を主張している。また、「がれきを利用した復興の事例はたくさんある。第2次世界大戦後の復興でドイツやオランダでは公園づくりにがれきを利用した。身近な例では横浜の山下公園は関東大震災のがれきを埋め立てて復興のシンボルにした」ということで、瓦礫を活用した防波堤の丘を作る事業であれば、震災の現場の復興事業にも繋がるわけで、一石二鳥の素晴らしい計画になるはずだ。この計画の脚を引っ張るのが、瓦礫は焼却することになっているという法律らしく、そんな法律こそ廃止して特別条令でも出して、早急に事業化すべきだろう。
もう一つの大問題、福島原発による汚染土壌の除染の問題である。今や除染作業の請負が利権と化してしまっている。国の予算で福島原発の周辺地域を除染する計画なのだが、海外の原発関連の学者からは冷ややかな意見ばかりが出されているようだ。除染は確かに子供や妊婦に影響が出ないように、そのような施設を中心に実施するのは当然だが、山林や農地を除染するということは、放射能を水で流し落とすわけで、その水はどこかに流れ、さらに汚染が広がるだけであり、ナンセンスな事業で、それに業者が利権を求めて群がる構図はちょっとおかしいというものだ。それよりも早く対策を急ぐべきなのが、汚染マップの作成だと言う。かなり細かな地域別の放射能マップを公開することで、子供や妊婦を高濃度汚染地に近づけないという対応が必要なのだという。これはチェルノブイリ原発事故の教訓であり、実際にそのような対応がなされているわけで、なぜそのアドバイスも日本では実行できていないのかとても不思議である。実際に、原発事故で犠牲になった人々が多いチェルノブイリや苦い経験をしたヨーロッパの知恵をどうして参考にできないのだろうか。そして、何よりも歯がゆいのは、これだけの前代未聞の原発による大事故を起こした日本が脱原発宣言どころか、再稼動ばかりを話題にしていることだ。福島原発事故を教訓としたドイツやイタリアが脱原発宣言をすぐさま表明しているのに、当事者の日本では国会で原発の議論すらされていないことに、大きな違和感を覚える。(

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO

 

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