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■よりみち~編集後記

 

更新日2014/05/08


ウクライナの政変が急速に泥沼化しそうな様相である。ロシアへの併合を求める親ロシア系住民と、西側への帰属を選んだウクライナ系住民とのぶつかり合いが、すでに武力攻撃にまでエスカレートしてきていて、ここまでくると話し合いでまとまるとは到底思えない。ロシアの工作員と西側のエージェントの工作合戦もやっているのだろうが、ロシアも西側も落とし処に困っているのが実情かもしれない。このままでは、たぶん二ヶ国に分裂するしか安定化の道はないのかもしれないが、どちらもロシア語系で、宗教もロシア正教とカソリックで、リボンでも付けなければ容姿的には区別がつかない関係で、そこに国境ができるということは、えらく大変な生活を強いられることになり、多くの不幸な現象が想像される。これは旧ユーゴスラビアなどで、分割化による経済の停滞から、親子分断など悲劇が多いことでも実証済みである。

シリアでも、その前のエジプトでも、市民が立ち上がり、腐敗政治に断固として闘う姿勢は、インターネット(特にSNS)による情報共有が大きな起爆剤になっていることは間違いないだろう。情報社会により、独断的な権力はすぐに全世界に発信され、瞬く間に批判の嵐となるから、もはや国民を騙したり、情報操作することも難しくなっており、北朝鮮や中国のような独裁的な軍事政権国がネットを遮断し、国営放送局だけの情報しか与えない方法が残されているだけだ。市民運動などにより国政がひっくり返り、大統領を追い出してしまったり、不正行為を裁判で正すということが頻繁に起こっており、今後もこの傾向は続くのだろうが、大きな問題がその後に待ち構えていることが、アラブ諸国の政変や現在進行形のシリア、ウクライナの事例で分かってきた。

政変が勃発し、市民活動家が政権を倒し、自ら政治家になって理想の国家を目指すことは当然の流れだと思うが、その政権交代時の混乱期に必ずと言って良いほど、過激な武闘派がチャンスはここぞと乗り込んできたり、民族や宗教至上主義者が独立は今しかないと排他的なことを言い出して、異民族や異教徒を締め出しにかかる。そして、真打は無政府主義のテロリストと呼ばれる集団である。こうなってくると、誰がまとめようとしても上手くいくはずがない。結局、昔ながらの武力征圧しかなくなるのだ。人を黙らせる一番簡単で、有効な手段は古代から変わらない。そして復讐の負の連鎖は延々と続くことになる。理想に燃え、政権をひっくり返すまでは良かったが、また違ったより複雑で出口の見えないカオスが生まれるわけだ。それが分かっているから、独裁者の後の政権は軍隊が出動して言論を押さえつける軍事政権と相場が今までは決まっていたのかもしれない。
現在のウクライナの動きを見ても、もはや親ロシア派大統領を国外に追い出した時の勢いや高揚感はなく、今後どうなるかという不安感と絶望感ばかりが大きくなっていて、望むことはただ一つ「平和な生活」だけだろう。

このような政変がある度にいつも考えるのだが、国の混乱時に増えてく武闘派の狂信的セクトの存在だ。それが武闘派でなければ、なんとか話にはなるのかもしれないが、過激な宗教思想や民族思想に洗脳された狂信者になると、話し合いどころではない。そして、武器のパワーや暴力で主張を貫こうとし、もっと過激になると自爆テロに行き着いてしまう。いくら平和裏に無血での改革や政権交代を望んでいても、圧倒的な軍事力を掌握しない限り平和な安定した生活は確保できないという現実である。
安倍首相の軍国主義的な傾向が批判され続けても、着々と進めている集団的自衛権や自衛隊の増強などは、たぶんこのような超現実的なネオコンサバティブ(新保守主義)の発想からなのだと思える。しかし、すべてはバランスの問題であり、積極的平和主義と言っていることがいずれ武力介入に繋がり、戦争への介入まで平和のために決断を迫られる可能性があることを充分考えておく必要がある。出る杭は叩かれるのが世の常であり、日本はそのバランス感覚の良さだけで世渡りをしてきたことを忘れるべきではないだろう
(越)

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO

 

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