■国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、2023年7月4日、フクイチにたまる放射性汚染水について、日本による海洋投棄計画は国際基準に合致しているとする包括報告書を岸田首相に手渡した。よく考えておくべきなのは、IAEAは原子力の平和利用の推進団体であり、原子力を規制する立場ではないことで、今回も間違いなく日本の要請により行動し、協力関係にある団体であり、はっきり言ってしまえば、東電のイキがかかっていることは間違いないだろう。
■福島第一原発からは、1日あたり100立方メートルの汚染水が発生しており、放射性汚染水はALPS(多核種除去設備)で処理され、敷地内のタンク(全容量は約130万立方メートル)に保存されているが、満杯状態だとして、IAEAの安全基準を守り、海水と混ぜ希釈して海洋投棄するしかないと東電及び政府は説明している。また、世界中の原子力発電所は、福島の処理水を上回るトリチウムを含む廃水を定期的に放出しており、今回のIAEA事務局長がわざわざ来日して、「処理水の放出が人や環境に与える影響は『無視できる程度』だ」と会見で公表した。
■一方で、PIF(太平洋諸島フォーラム)や隣国の中国や韓国が、東電が計画している放射性汚染水の海洋投棄に反対を表明していて、PIF専門家パネルのアジュン・マクヒジャニ博士(米エネルギー環境研究所所長)は、「東電はIAEAの安全基準に準拠していると言いますが、利益がゼロで害はある限り、GSG8には違反していると私は思います」と表明。GSG8の2.11は「正当化とは、総じて有益なのかどうか、つまり、その活動を開始または継続することによって個人や社会が受け得る利益が、活動の結果生じる放射線障害を含めた害を上回るかどうかだ」としている。
■また、PIF(太平洋諸島フォーラム)専門家パネルは、海洋放出に代わる案も提示しており、ALPS処理後のトリチウム水によりコンクリートを作り、たとえば防潮堤など人間が日常的に近づかない構造物に使う案を提案しているが、東電はALPS処理をせずに汚染水をコンクリート固化して、廃棄物として埋設処理する検討はすでに行ったとして、トリチウム水のコンクリート固化案を無視している状態で、希釈して海洋投棄するのがコスト的に最も安価なことは誰でも分かるが、トリチウム水でコンクリート固化して防潮堤や構造物に使うことで海洋資源の汚染の心配をなくし、新たな産業にもつなげられる提案であり、なぜ真剣に検討しないのか、東電の不誠実さがここでも顕在化している。他の国でも処理済みのトリチウム水を海洋投棄しているから日本のフクイチの汚染水も薄めたら問題ないなど、問題が起こってしまってからでは全く遅いことに気づくべきだ。(越)
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