のらり 大好評連載中   
 
■よりみち~編集後記
更新日2019/09/19




今日、2019年9月19日午後13時、東京地方裁判所の永渕健一裁判長は、東京電力の勝俣恒久元会長(79)、武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69)の旧経営陣3人全員の無罪を言い渡しました。以前から、日本の司法が官邸と癒着しているとか、司法の独立性に疑問を投げかける批判が出てはいたのだが、今日の東電裁判によって、日本の司法の完全に良心を失った瞬間を目撃した感じがしています。

今回の東電裁判の経緯を振り返ってみる。

2011年3月11日 東日本大震災 福島第一原発事故発生
2012年6月 福島県の住民グループが東京電力旧経営陣に対する告発状を検察当局に提出
2013年9月 東京地検 東京電力旧経営陣など40人余りを全員不起訴処分
   10月 住民グループ 旧経営陣6人に絞り検察審査会に審査申し立て
2014年7月 検察審査会 勝俣元会長ら3人を「起訴すべき」と1回目の議決
2015年1月 東京地検 改めて3人を不起訴処分
   7月 検察審査会 3人を「起訴すべき」と2回目の議決
   8月 裁判所 指定弁護士を選任
2016年2月 指定弁護士 3人を業務上過失致死傷罪で起訴
2017年6月 勝俣元会長ら3人の初公判
2018年1月~11月 第2回公判~第34回公判 証人尋問 被告人質問 意見陳述
   12月 第35回公判 論告 求刑、第36回公判 被害者遺族代理人 意見陳述
2019年3月 第37回公判 最終弁論
   9月 判決公判 旧経営陣3人全員無罪判決

裁判では、原発事故を引き起こすような巨大な津波を事前に予測することが可能だったかどうかが最大の争点になっており、検察審査会の議決によって強制起訴された東京電力の旧経営陣3人は、津波対策を判断する上で極めて重要な役職にあり、その責任と過失がなかったか追及された。問題の焦点は東日本大震災の前に津波対策を社内で検討が進んでおり、当時の東電担当者が内部告発的な発言をしていることだ。その経緯を振り返ってみる。

2002年7月 政府の地震調査研究推進本部が福島県沖含む日本海溝沿いで30年以内にM8クラスの
      地震が20%程度の確率で発生する可能性があるとの予測を公表
2007年7月 新潟県中越沖地震発生 柏崎刈羽原発 全7機を停止し安全点検(2年5ヵ月後運転再開)
2008年2月 元幹部 「御前会議」で長期評価を取り入れることや、新たな津波対策を講じる
      必要があることが了承されたと証言
      → 旧経営陣 「記憶にない」「勘違いじゃないか」
   3月 東京電力 福島第一原発の敷地に最大で15.7mの津波が押し寄せるという試算をまとめる
   6月 東京電力 最大15.7mの津波試算を武藤副社長に報告
   7月 武藤副社長 津波対策を保留し、専門学会に検討依頼の方針を示す
      元幹部 武藤副社長からバックチェック審査委員の学者から
      東電方針の了解を得るよう根回しを指示されたと証言 
      → 武藤副社長は「ご意見を聞くように」と根回しではないと反論
2009年6月 原発の安全対策の審査を受けるための国への報告期限(バックチェック)
2011年3月 東日本大震災 福島第一原発事故発生

検察審査会は、2015年7月、原発事故が起きる前の東京電力が経営のコストを優先する反面、原発事業者としての責任を果たしていなかったと結論づけた。政府の津波対策のバックチェックというプレッシャーもあり、社内の担当者レベルでは当然津波対策は不可避であり、トップも早急に動かざるを得ないと思っていたが、御前会議ではコストが問題になり、バックチェック回避のための根回しや検討保留で時間稼ぎをしていた実態が暴かれたにも拘わらず、結局は想定外の事故であり責任までは問えないという玉虫色の結論になったわけだ。検察と東電幹部がグルになって逃げ切ったカタチで、明らかに政治が、それも官邸が絡んでいることは間違いないだろう。もう裁判所には良心の欠片もなく、官邸の茶坊主集団に成り下がったと思われてもしょうがないだろう。(越)

 

 

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO

 

このコラムの感想を書く



のらり編集部

著者にメールを送る


バックナンバー

■更新予定日:毎週木曜日