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■よりみち~編集後記

 

更新日2011/11/17


FTA、TPP、ISD……と、最近の国際や経済のニュースは、ほとんど用語辞典なしには理解ができない時代になってきたようだ。おまけに、これを正確にそして誰もが理解できるように解説することも難しくなってきた。それほど解釈に開きが出るほど微妙な時代に突入したのかもしれない。考え方の違いで、分析が異なり、一方から観ると国益になり、他方から見ると国難になるということで、誰もが納得できる数式のような「正解」はもはやありえない時代になったのかもしれない。これほど、世の中は多様化しており、立場や職業などによって考え方が個々で違ってきているということなのだろうか。さらに追い討ちをかけているのが、地球規模の経済不況と自然破壊による食糧危機など、国家に起こっている財政問題も世界共通ということだ。どこも自国の利益だけを考えるので精一杯という、なんとも恐ろしいテンパリ状態なのだから大変だ。これはかつて戦争が多発した時代の様相と似てきているのではないのかと、ちょっと心配になってくるほど、どこの国の状態もアップアップになっているような気がする。
アメリカの長引く財政問題、テロ対策や紛争処理による疲弊、リーマンショックなど投資仮想経済の破綻とアメリカ経済の低迷、そして中国資本と中華圏経済の台頭、ロシアの天然ガス&オイルバブルによる経済潮流の劇的な変動など、旧欧米経済機構が弱体化してしまったことは明らかで、アメリカ中心に動いていた世界経済がもうそれでは動かない状態で限界に達したのだと思える。次の潮流は明らかに中国とロシアが鍵を握ってしまった状態で、その鍵をなんとか引き戻そうと焦りに焦っているのが現在のアメリカなのではないだろうか。時代はアジアであることは明白で、そのアジアを煽て上げて、覇権をもう一度握るために盛んに動き廻っているのが現在のオバマ政権のようだ。
ここで重要な位置にいるのが日本である。当然、アメリカはアジアの覇権争いのためには、日本とタッグを組んで中国を牽制したいわけで、対中国対策の拠点としても日本を傘下に入れ、アメリカナイズしたいと考えていることは明らかで、TPPはその重要な足がかりとなるものだ。アメリカとしては、このTPPで日本を含め中国を取り巻くアジア圏でアメリカ主導の貿易協定を強引に勝ち取り、アメリカの経済基盤を建て直し、中国とロシアをしっかりと牽制できる体制を構築しようとしており、オバマ政権存続の切り札となっている。
しかしながら、すでに世界はアメリカ主導の時代でないことは明白で、エネルギー問題=原発から自然再生エネルギー、インターネットによる社会運動、アフリカそしてアラブの目覚め、投機マネーや格差社会への反動など、時代の潮流は大きく転換しようとしており、価値観までもが大きく変わるターニングポイントが近いように思える。日本はもっとしたたかに、もっとアジア人として、もっと未来を見据えて、日本の独自のビジョンを描くべきだ。
ちょうどこんな時期にブータン国王夫妻が来日していることに、何か新たな時代のメッセージを感じた。「国民総幸福量」(GNH)を新たな基準とした実にユニークな独立国で、風貌や服装は日本人にこれだけ似ている国はないだろう。チベット仏教と文化が脈々と継承されている誇り高い国だ。インドと中国の間で山岳地帯だから、産業は何もないが、自給自足がやっとの農業国でありながら、誰もが幸福だと感じている訳で、物欲から開放され、幸福の概念を変えるだけですべての人が幸せに暮らせるということを実証している国でもある。日本が今さらブータンには戻れないだろうが、国民総幸福量の向上を目指すことはできるはずだ。
その第一歩として、日本がまずやらなければならないのは、原子力発電からの脱却であり、再生可能な自然エネルギーへのシフトから始めるしかない。原発技術を海外輸出など言語道断、あってならないことだ。今現在も福島原発を冷温停止も実現できていない状態で、かつ除染問題すら手付かずの状態で、どうしてそんな原発技術を海外に輸出できるのか全く理解できない。すべては金銭の問題なのだ。金銭の論理に振り回されているだけだ。これだけ投資しているから、中止すると違約金が発生するとか、損失がでるとか、ブータンの人々には、この金銭問題はどう説明しても理解はできないだろうね。

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO

 

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