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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 
第415回:うんぺいとおもちゃ色の気動車 - 弘南鉄道弘南線2 -

更新日2012/03/29



駅前に立ち、辺りを見渡す。バスロータリーの向こうの建物に「黒石線検修所」と書かれている。弘南鉄道の黒石線が名残はあれくらいだ。黒石線はもともと国鉄の赤字ローカル線を引き取った路線で、結局は赤字で廃線になった。私は国鉄時代の1983年に乗ったけれど、この風景に見覚えがない。もっとも、その時の記憶が薄れているし、なにより国鉄の黒石駅はここではなかった。


雨上がりの黒石駅

国鉄黒石線が廃止された時、弘南鉄道は国鉄から線路を引いて、こちらの黒石駅構内につないだという。ネットの地図と航空写真を見ると、弘南鉄道の黒石駅から北西へ廃線跡のような筋が見える。その筋をたどっていくと、途中で細い道路になり、やがてJR川部駅に到達する。これが国鉄黒石線。かつて私が乗った線路である。国鉄黒石駅は弘南鉄道黒石駅の北隣にあったようだ。現在は葬祭場になっている。


建物に黒石線の表記が残る

あのとき、国鉄黒石線に乗ったなら、弘南鉄道黒石線で弘前に出ればよかった。そうしなかった理由は、まず廃止される国鉄ローカル線に乗ろうと思っていたからだ。もうひとつ。私鉄に乗るオカネがなかった。当時の私は高校生である。周遊券を買うだけで精一杯だった。

そうだ。帰りは国鉄黒石線のルートを走るバスに乗ってみようか、と、バスの時刻を調べてみた。弘南鉄道黒石線が廃止されるとき、弘南バスが代行バスを設定したはずだ。その路線はたしかにあったけど、一日5本。私たちが黒石に着く直前に4本目が出発していた。次の最終は17時40分。これを待つくらいなら弘南線で戻ったほうが早い。


国鉄黒石駅はメモリアルホールになっていた

弘南鉄道の黒石駅はスーパーマーケットが併設されている。店内をめぐり、パンコーナーでランチパックに似た「フレッシュランチ」を買った。ランチパックコレクターにはよく知られた青森限定品。イギリストースト風とツナサラダ。明日の朝飯用にする。

スーパーを出て、駅の裏口を出てみた。向かいに和菓子屋があり、「津軽名物 うんぺい」という貼り紙がある。うんぺいとはなんぞや、と店内に踏み入れた。糖尿病の治療中だから、本当は和菓子屋など鬼門である。しかし好奇心が勝ってしまった。奥から店員さんが現れる。

「うんぺい」は、こちらではよく食べられているお菓子だそうだ。もち米と砂糖を練り合わせた郷土菓子、と説明書きがある。正月やお祭りのもてなしにも使われるという。スライスしたかまぼこのようで、緑と水色に着色されている。なるほど、いろんな色があれば賑やかだろう。皿に二つしかなかったので、両方買ってみた。


郷土菓子「うんぺい」

こちらでは知られたお菓子、というなら、スーパーにもあるだろう。もう一度店内を探すと、パンコーナーの隣の棚にあった。こちらは白と薄いピンク色。こちらも買う。食べ比べである。M氏に半分食べてもらおうと思う。

スーパーの店内でM氏と合流し、帰りの電車に乗った。さっそく件の包みを開く。全部食べてみたいので、4つのうんぺいをちぎって半分渡した。なるほど……これは関東でいうところの「すあま」である。優しい甘さで、すあまと違うところは、砂糖の粒の食感がある。シャリシャリと楽しい噛みごたえだ。しかしM氏はふた口食べて、「もういいよ」と言った。食べ物には一家言ある人である。もっとも「チーズとトマトは嫌いだがピザは好き」という人でもある。難しい。

帰りの電車で確認したいことがあった。田舎館駅の先にある3両のディーゼルカーだ。携帯端末で調べたところ、かつて弘南鉄道黒石線で運用されたディーゼルカーだという。1両は国鉄時代に譲り受けたキハ22形。2両は秋田の小坂製錬から譲り受けた2100形。私が乗ったとしたらキハ22のほうだ。しかし、2100形は小坂製錬時代に乗ったかもしれない。縁が有りそうでなさそうで。しかし、いまや赤・青・黄に塗られ、幼児玩具のような姿である。どれがどれだかわからない。


黒石線で使われていたディーゼルカー

このディーゼルカーに遮られた向こう側に「道の駅いなかだて 弥生の里」があり、大きな人工池がある。その池をGoogle Mapの衛星写真で見ると世界地図になっている。車窓からは確認できないし、淵からでは気づかないかもしれない。付近には博物館もあるようで、時間があれば立ち寄ってみたかった。ここ田舎館村は田んぼアートも盛んだという。見頃は10月。覚えておこう。


世界地図の池:大きな地図で見る


晴天が続き、遠くに岩木山が見えた。平賀駅の凸型電機を見る頃には暗くなっていた。弘前で乗り替えた奥羽本線の車窓は、夕日に染まった。新青森の接続は10分。駅弁を買って慌ただしく新幹線電車に乗り込む。新青森 - 八戸間の景色を見たかったけれど、日没後の明るさは長持ちしなかった。私とM氏の最後の見物は、盛岡駅での小町との連結作業だった。


岩木山が見えた


奥羽線で日没……間に合わなかった

あとは駅弁を食べるだけ。私は伯養軒のとりめし。M氏も伯養軒で、しゃけいくらの釜めし。M氏は満足そうである。私の鶏飯も美味かった。五能線の不通区間が残念だったけれど、まずまずの旅であった。


最終ひとつ前の新幹線で帰京


鶏飯弁当の旨さはゆるぎない

第415回の行程地図

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2011年09月06-07日の新規乗車線区
JR:249.8Km
私鉄: 30.7Km

累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):18,669.9Km (82.95%)
私鉄: 5,717.6km (81.32%)

 

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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■著書
『A列車で行こう9 公式エキスパートガイドブック』
杉山 淳一著(株式会社エンターブレイン)





『もっと知ればさらに面白い鉄道雑学256』
杉山 淳一 著(リイド文庫)





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杉山 淳一 著(リイド文庫)


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