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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第473回:消えた支線 - 函館本線 岩見沢~深川 -

更新日2013/05/30


岩見沢着12時02分。ちょうど昼飯時であった。元の予定では苫小牧で食事用に2時間とっていた……というより、列車が2時間後だったから、そこで昼飯にするつもりだった。しかし予定が早まり接続がよくなって、岩見沢にこの時間である。苫小牧では寄ってみたいラーメン屋に見当をつけていたけれど、岩見沢はノーアイデアである。


岩見沢駅のホームに馬の像。ばんえい競馬開催地を記念したという

これから深川へ行こうとすると、普通列車は13時50分発の旭川行きである。その前の12時30分発は途中の滝川止まり。12時58分発の稚内行き特急サロベツに乗っても、深川から先の留萠本線の便がない。当初の予定ではもっと遅い時間に岩見沢に到着し、深川まで特急スーパーカムイに乗らないと留萌本線に間に合わなかった。予定が繰り上がったおかげで、13時50分発の普通列車でも間に合う。あと1時間半ほどある。


岩見沢駅舎

広い駅前をざっと見渡して、食事どころが見つからない。携帯端末で飲食店を検索する。ランチの量が多くて安いと評判の喫茶店を見つけた。駅前広場に面したビル、岩見沢市コミュニティプラザという、役所の支店のような役割の建物の中にあった。唐揚げ定食が390円。弁当チェーン店のような値段で、量もしっかり。唐揚げは冷凍物のようではあるけれど、揚げたて、うまい。市営食堂のようなものだろうか。


390円の定食

駅前商店街を進み、岩見沢名物天狗饅頭の店に入る。こしあんと肉まんがあるという。ひとつずつと注文する。湯気を立てたせいろの中から出してくれた。次にパン屋を見つけた。ベーカリーししまる。できたてと店員が勧めたチーズパンをひとつ。さっき昼飯を食べたではないか。いや、これは非常食である。どこかで列車が立ち往生したり、空腹時に商店がない場所にいるかもしれない。商店街の奥、西洋風の建物を目指す。空き家のようであった。パチンコ屋かゲームセンターか、キャバレーかもしれない。窓が小さい。ここで散歩の潮時だろう。


西欧風の建物は空き家だった

引き返し、線路沿いを戻る。赤レンガ倉庫を再利用したイベントホールがあってその先は駅舎まで広場になっている。200メートルほどだろうか。レンガ畳の広場、まだ若い植樹。その並木の向こうを貨物列車が通り過ぎた。日差しが強くなっている。汗ばんできた。ふと思いついて、商店街のコンビニに入る。コーンポタージュ味のアイスキャンディーが話題になっていた。どんなものだろう。東京では売り切れ続出という。ここにはあった。さすがコーンの本場である。食べてみた。北海道流にいうと、コーンポタージュというより、とうきびチョコのアイス版であろうか。コーンの香りと甘みが面白い。

冷たい食べ物の次に、温かい食べ物が欲しくなった。非常食だったはずの饅頭とチーズパンを食べた。食べ過ぎだ。


レンガ畳の広場から貨物列車を眺める

岩見沢駅舎はレンガとガラスをふんだんに取り入れ、キリッとした四角い建物だ。デンマーク国鉄デザインではなく、デザインコンペで受賞した作品である。新幹線を停めてあげたいくらいの立派な駅である。木陰のベンチのひとつに制服の少年少女、もうひとつはベビーカーの母と子。まるで完成予想図のような絵になる風景であった。

旭川行きの普通列車、列車番号2181Mは真っ赤な電車の3両編成であった。711系といって、国鉄時代に製造された交流区間専用電車である。顔つきは本州の113系などに似ている。高倉健主演の映画『駅 STATION』で、札幌近郊の殺人事件現場の背景を走っていた。高倉健と大滝秀治が刑事役。あの映画は1981年の公開だから、711系は製造から30年以上も経過しているといえる。そろそろ引退しそうな気がする。最後の乗車かもしれない。


旭川行きは高校生の帰宅列車だった

その3両編成の電車は高校生で満席である。立ち客も多い。そして車内の温度は高い。北海道の国鉄型普通列車はクーラーを積んでいない。あとから冷房改造もされていない。ただしこれで問題ないようだ。走りだせば、さわやかな風が入ってくる。風の冷たさに救われる思い……いや、急に気温が下がっているようだ。岩見沢駅前は快晴だったけれど、列車が進むに連れて、低く暗い雲が被さるように増えて、青空を隠しつくした。列車の走行音に混じって雷鳴も聞こえる。

岩見沢を出て、7分後の停車駅は峰延である。ここで雨が降ってきた。雲の形に立体感があり異様である。濃い灰色の雲からは雨が降っている。東京でも雲の形は同じだと思うけれど、北海道の空は広い。雨の場所、晴れの場所がよくわかる。


雨模様の風景

峰延の二つ先、美唄という駅で高校生の半分以上が降りていく。美唄はビバイと読む。カラス貝が多い沼という意味とのこと。美唄の"唄"の字に貝が入っている。しゃれた当て字である。この美唄からも、かつて炭鉱まで支線が分岐していた。三池炭鉱の操業停止と廃坑によって、この支線は廃止になっている。私が小学校に上がった年だ。日本はエネルギーの大転換が起きていた。

砂川と滝川でも高校生が降りていく。どちらも炭鉱の景気に湧いた町である。砂川からは歌志内線、函館本線上砂川支線が分岐していた。私はどちらも1983年の9月に乗った。高校生の頃、北海道ワイド周遊券を使った。あの頃が国鉄の赤字線のリストラ最盛期であった。なくなる路線にどれだけ乗れるか。それが旅のテーマだった。


砂岸のある川

歌志内とは牧歌的な名前だ。これはアイヌ語の「砂岸のある川」という意味の言葉に文字を当てている。ちなみに隣の地名は砂川市。上砂川支線の終点、上砂川駅は、『駅 STATION』のロケ地となった。高倉健役の刑事が指名手配犯を捕まえる場面だ。そして私が訪れたあと、倉本聰脚本のドラマ『昨日、悲別で』の舞台、悲別駅に使われている。

次々と消えていった支線は、すべて炭鉱から石炭を輸送するための路線だ。ここから、室蘭本線を経由して苫小牧へ、室蘭へと運ばれた。今日の私の行程は石炭の産地へ遡っている。滝川の次の駅は江部乙。アイヌ語で「ユベ・オツ」、チョウザメのいる場所という意味らしい。その次は妹背牛。もせうしと読む。イラクサが茂る場所という意味という。札幌から遠ざかるほど、北海道の駅名は面白くなっていく。


すこし晴れ間が見えてきた

14時54分。深川着。空が明るくなってきた。しかし雲は多い。

 

…つづく

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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