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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 
第377回:抜きつ抜かれつ大ターミナルへ - 阪急京都線 2 -

更新日2011/06/09


上牧駅は"かんまき"と読む。関西には関東の常識では読めない駅名がいくつかある。京都線にはほかに東向日、西向日、正雀などが読みにくい。ちなみに"ひがしむこう"、"にしむこう"、"しょうじゃく"である。他の路線では放出、京終、祝園、河堀口が難しい。隅田、布施屋などは、関東人なら絶対に読み間違える。正解はあえて書かない。


先頭車を改造した中間車。ちょっとしたセミコンパートメント。ただし立席

さて、上牧駅は普通列車しか停まらない駅である。新幹線を眺めつつ、威勢のよい快速急行の通過を見送って、次の普通列車は梅田行きである。阪急電車はマルーンカラーがトレードマークであるというけれど、さっきの快速急行は屋根を白く塗っていて、今度の電車は屋根までマルーンだった。屋根が白いほうが新しい電車であるらしい。古い電車の先頭車は、窓の並びが顔に見える。新しい電車の顔はちょっといかめしく直線的で、ロボットの顔のようだ。メカっぽい。

いまさら電車の形くらべなど、まるで子供のような行為だと思う。でも、ちょっとした発見があるたびに楽しい。電車好きの初心に返ったような気持ちだ。私も、この地域の子供たちも、こうして少しずつ阪急に詳しくなっていく。地元の阪急ファンには笑われるかもしれない。しかし、彼らも東京に来れば、異郷の路線で似たような感想を持つだろう。


沿線は京都にも大阪にも便利なベッドタウン

さて、阪急京都線は京都と大阪を結ぶ路線である。大都市を結ぶ幹線であり、JRや京阪電鉄というライバルもある。だから速達性を重視しており、特急、快速急行、準急など、さまざまな優等列車がある。阪急とは阪神急行の略であって、やはりその意義は"急行"にあるだろう。おっと、子供心に戻っていうならば、電車はやっぱり、ハイスピードで走ってほしい。

私はいま、各駅停車に乗っている。でも、どこかで優等列車に乗り換えて、阪神"急行"らしい走りを体験してみたい。携帯端末で乗車駅を『上牧』、下車駅を『梅田』と入力してみたら、意外にも"乗り換えなし"、この普通列車がもっとも早く着くという結果だった。拍子抜けである。どこかの駅で降りてしばらく待って、優等列車を待ってみようか。いや、それでは後の予定に影響する。優等列車は帰りのお楽しみとしよう。


巧みな乗り継ぎで先行する


ところが、上牧のとなりの高槻市駅に着くと、ホームに並んでいる人々がこの列車に乗ろうとしない。明らかに次の列車を待っている。なぜか。次の列車のほうが早く着くと、彼らは経験則で知っているからだ。そう読み取って、私はとっさに列車を降りた。ドアが閉まる。はたしてこれで正解か。列の後ろに回りつつ、屋根から下がった発車案内板を見た。次の列車は"準急"とあった。ただし、梅田行きではない。天下茶屋とある。確か……大阪市営地下鉄で、南海線と接続する駅だ。梅田には行かない。

梅田には行かなくても、各駅停車の5分後の準急である。どこかで各駅停車を追い越してくれるだろう。梅田への分岐は淡路駅。そこでまた、この各駅停車に乗る結果になってもいいじゃないか。準が付くけど、急行の仲間である。さあ、駅をビュン、ビュンと通過してもらおう。そんな期待に応えるように、我らが準急はスピードを上げていく。通勤ラッシュが始まっていて、車内は立ち客が増えていた。私は扉のそばに立って狭い視界から景色を眺めた。駅をいくつか通過する。いいぞ、と思う。


千里線が平面交差する淡路駅

当たりだ。正雀駅で、さっき私が乗った各駅停車を追い越した。こちらは停まらない。つまり、普通列車と準急列車の接続はとらない。そのまま走り続けて淡路駅に到着した。この準急はここから千里線に入り、さらに地下鉄に直通する。だから私は降りて後続の列車を待った。発車案内を眺める。さっきの各駅停車が来るかと思ったら、なんと、次は快速急行の梅田行きであった。

結局、各駅停車に乗り続けるよりも早く梅田に着きそうである。京都線は追い越しや行き先の分岐が複雑で、乗り換え案内サイトが追いつけないようだ。ただし、この結果は私が普通列車に乗った後に調べた結果であって、列車に乗る前に調べれば、一本見送って次の普通列車に乗り、その普通列車が途中駅から準急に変わって、淡路で快速急行に乗り継げると出た。検索サイトだって負けてはいない。いずれにしても、阪急を乗りこなすにはコツが必要だ。


阪急名物の三複線。京都線だけ鉄橋の形が違う

淡路からの快速急行は崇禅寺駅と南方駅を通過して、十三駅に停車する。ここからは阪急電鉄の名物、三複線区間である。東側から京都線、宝塚線、神戸線が並ぶ。十三駅はまだ線路の向きが揃っていないけれど、十三駅の南できれいに並ぶ。そして新淀川の大鉄橋。ただし、京都線だけは橋の形が違う。これは京都線の出自が違うからである。

宝塚線と神戸線は生まれながらの阪急電鉄の路線、しかし京都線は京阪電鉄によって建設された。いや、正しくは京阪電鉄の子会社、新京阪電鉄によって建設された。それが戦時の大合併を迎え、分割されたときに阪急電鉄に残された。そのせいか、宝塚線と神戸線は十三と梅田の間に中津駅があって、京都線にはない。電車の形式もちょっと違う。8000系、5000系となるところを、京都線は8300系、5300系と300番台が付く。きっと車両の寸法か信号機か、なにか決定的な違いがあるのだろう。


梅田大ターミナルに到着

快速急行はドーム型の大きなターミナルに進入した。線路の両側にホームがあって、先端は行き止まり式。いわゆる櫛型構造だ。この形もいい。ヨーロッパの終着駅のような貫禄。旅立ちの風景としても、終着駅の風景としてもふさわしい。梅田駅は三つの路線が三つずつの線路を持っているから、ここは最大で9本の列車が並ぶ。それぞれの列車は異なる発着時刻があるから、9本も揃う時間は少ないかもしれない。

ぜひとも9本の列車が並ぶ瞬間を目撃したくなる。阪急もそんな気持ちを汲んでいるのだろう。梅田駅の改札口寄りの両端に、ホームを見下ろす席を持つ喫茶店がある。あそこに飽きるまで佇んでいたい。飽きないかもしれない。見上げれば、窓側の席は老若男女のお客さんで埋まっていた。これから通勤する人の朝食時間、あるいは夜勤明けでほっと一息という人もいるだろうか。


ずっとここに佇んでいたい

特等席が埋まっていて良かった。心置きなく先に進める。私は喫茶店の階下にある売店でパンを買った。ヤマザキのランチパックである。全国どこにでもある製品だけど、最近になって、実は地方版があったり、毎月新製品が出ていたり、期間限定版があると知った。私は意識してコレクション僻を退けている。しかし、これは食べれば消えるコレクションだ。最近になって、なるべくいろんな種類を食べようと思い始めた。今回は「たまご」と「豚角煮風」である。カロリーが表示されているから、医者からダイエットを命じられた身としてもありがたい。

-…つづく

 

第377回の行程地図
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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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杉山 淳一 著(リイド文庫)


 

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