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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第479回:立ち席からのスタート - 日本最長列車 2429D 1 -

更新日2013/07/25


恵比島駅から深川駅へ。沼田へ買い物に行くお婆さんとディーゼルカーに乗った。約8分で石狩沼田駅に着く。お婆さんはしっかりした足取りで駅舎に向かった。駅員さんが声をかける。顔なじみらしく、何か会話して、笑い声が聞こえる。これから買い物をして、町に住む馴染みの人々と茶飲み話をして……そんな一日になるのだろう。


恵比島から深川へ

快晴の留萌本線である。空は青く、雲もわずか。どんより曇った昨日とは景色が違う。低い山が点在し、辺りは畑という景色。踏切を通り過ぎた。線路に対して道路が直角に交わる。その道はずっとまっすぐ延びて、丘を切り通しで突き抜けている。まさに北海道の風景。原野に定規で線を引いたような道であった。


快晴の留萠本線


北海道らしいまっすぐな道

深川着09時09分。定刻である。ここから滝川までは普通列車が少ない。滝川発09時37分の列車に乗りたいから、特急『スーパーカムイ』に乗る。青春18きっぷは使えないから、いったん改札を出て、きっぷ販売機で乗車券と自由席特急券を買った。運賃は440円。特急券は短距離乗車の特例で300円。きっぷは1枚にまとめられており、740円であった。

恵比島駅に寄らなければ普通列車で乗り継げた。恵比島駅に立ち寄ったから、日程を戻すために特急に乗る。つまり、この740円が恵比島駅の入場料ともいえる。安いものだ。なんで躊躇したかわからない。それに『スーパーカムイ』も初体験。これも楽しみである。

きっぷを手に、わくわくしながら特急の到着を待つ。逆方向から汽笛が聞こえた。振り向けば、茶色いコンテナを連ねた貨物列車がやってくる。先頭は赤い機関車、DF200形。REDBEAR、赤い熊の愛称がある。コンテナの中身はなんだろう。タマネギだろうか。北見から旭川まで、タマネギを運ぶ貨物列車が走っていて、そのままタマネギ列車と呼ばれている。この貨物列車はその荷物を引き継ぐ役目かもしれない。コンテナベース貨車に、四角いコンテナが隙間なく並んでいる。なぜか最後尾だけは白いコンテナで、ミサワホームのロゴがある。北海道に住宅資材の工場があるそうだ。


重量級の貨物列車が通過

貨物列車が走り去った方向から、今度は『スーパーカムイ14号』がやってくる。銀色の背高な車体は789系1000番代という。798系は青函トンネルを走る『スーパー白鳥』に使われている。スーパー白鳥は黄緑色の鮮やかな姿。こちらは銀色。ゼロ・ハリバートンのアタッシュケースを連想する。隙のないカッコよさがある。これもデンマーク国鉄のデザインセンスが活かされている。


12分だけ乗ったスーパーカムイ

カッコいい電車に乗れたけれど、次の滝川駅までは短い。ゆったりした座席で、揺れの少ない高速運行を12分だけ楽しんだ。大きい窓からの眺めは普通列車と違う雰囲気。紫外線を遮断するガラスだから、だけではないと思う。今回の旅で、最初で最後の特急列車だから、とくに印象が強いともいえる。


川に昨日の豪雨の跡

車窓左側に線路が増えていき、09時29分に滝川駅着。駅舎側のホームに旧式のディーゼルカーが停まっている。あれがこの旅の最後の目的、普通列車の釧路行き、列車番号『2429D』だ。ホームに入線する場面から見たかったけれど、すでに発車8分前である。のんびり観察していられない。私は早足で跨線橋の階段を上った。一番のりばに降りると、いったん改札の外に出る。特急のきっぷを駅員に渡し、駅舎の写真を撮って、青春18きっぷで改札を通る。なんとなく、これがケジメであるような気がした。


日本最長鈍行が待機中

1番ホームの壁に「滝川駅は 日本一運行時間がなが~い定期普通列車 出発駅です」と掲げられている。走行距離308.4km、所要時間は8時間2分。いま、このホームに停まっている列車が、まさにその「なが~い」列車であった。今日はこれに乗って釧路へ行く。最長距離鈍行を乗り通す。発車時刻は09時37分、釧路着は17時39分である。ちなみに、この区間の片道きっぷを買えば5,560円かかる。青春18きっぷなら半額以下。これこそが青春18きっぷで乗るべき列車だ。

日本最長列車には異説があって、距離としては山陽本線の岡山発新山口行き、列車番号『371M』が最長だ。走行距離は315.8kmで、2429Dより7.4km多い。むしろ371Mが最長といえる。だから2429Dは「日本最長時間の列車」とわざわざ表記している。ただし、371Mは広島駅から列車番号が変わり『3481M』となる。これは「本来は別の列車だけど、便宜上、同じ車両を引き続き使う」とも解釈できる。


壁のポスターが最長時間をアピール

それはともかく、371Mを運行するJR西日本は自慢する気はないようだし、幹線の山陽本線で市街地を走る列車より、北海道のローカル線を走る2429Dのほうが旅の気分が盛り上がる。だから2429Dを日本最長鈍行と呼んでも差し支えない。滝川駅のポスターのように、JR北海道もこの列車をアピールしており、列車の行き先表示板も特製だ。釧路まで乗り通せば乗車証明書も発行してもらえる。

日本最長時間を走破する列車は、たった1両のキハ40形だ。全線を乗り通す客は好事家だけで、ふだんは短距離のお客さんばかり。だから1両でも充分というわけか。しかし車内は込んでいた。公立学校の夏休みは終わったし、北海道の夏休みは短い。しかし、大学生の夏休みは少し長いし、青春18きっぷの時期でもある。登山用の大きなリュックを背負った人も多い。いまはまだ大人の夏休み期間でもある。


特製の行き先表示板……そろそろ新製したほうがよさそう

立ち客がいるほど盛況の車内で、私は運転席の後ろに立った。私にとってここは定位置である。夏の昼間、冷房のない車内は熱がこもっている。しかし、運転士が側窓を開けていて、そこから乗降扉へと風が通る。走り出せば、その風は運転席から後方の窓へ流れるだろう。

長い乗車を見越して、滝川駅の短い滞在時間中に飲み物と菓子を調達した。しかしこの立ち位置では飲み食いはできない。たくさん乗っている人々は、いったいどこで降りるだろうか。車内を見渡したところ、私と同じ趣味を持っていそうな人は3人くらいであった。


約300km、約8時間の旅が始まる

…つづく

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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http://www.a-train9.jp/professional/


『A列車で行こう9 公式エキスパートガイドブック』
杉山 淳一著(株式会社エンターブレイン)





『もっと知ればさらに面白い鉄道雑学256』
杉山 淳一 著(リイド文庫)





『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』
杉山 淳一 著(リイド文庫)


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