第388回:アクセス特急の前面展望 - 京成電鉄 成田空港線2 -
アクセス特急は京成電鉄の3050形だった。これは成田スカイアクセスの開業に向けて作られた新車だ。アクセス特急には京急電鉄の赤い電車も使用されるらしいけど、京成の新区間は京成の電車で行きたいから、これは良かった。室内は空席が多いものの、ガラガラという程ではなかった。スーツケースを携えたグループも多い。京急電鉄や都営地下鉄方面、京成線や北総線内から成田空港へ行く人は、スカイライナーに乗れないのでこちらを使う。それなら、せめて車端部くらいはクロスシートにしてあげればいいのに、と思う。
アクセス特急は京成の新型車
空席があるにもかかわらず、私は運転台の後ろに立った。前面展望を楽しむためだ。そう、これがスカイライナーではなく、在来列車を選んだ理由であった。スカイライナーの流線型の先頭車はかっこいいけれど、客室から前方への展望はない。そのかわり、スカイライナーはすべての客室のモニターに展望が映し出される。もっとも、案内画面の合間だし、小さな画面だ。運転台後部のかぶりつきのような迫力はない。
スカイライナーにはない展望
出発信号が青になり、運転士がマスコンを倒した。電車がスルスルと走り出す。8年前に行き止まりの壁だったところがくり貫かれ、築堤がさらに続いている。壁のところはコンクリート地盤になっていて、上を道路が通っているようだ。線路の脇にも口があいており、新しい道路が作られそうな気配である。築堤の上で上り下り分かれていた国道484号が、印旛日本医大駅の手前で右に折れていた。国道484号は蛇行しているから、線路の脇を使って延長し、バイパスをつくるのだろう。
真新しい線路が伸びていく
運転台後部には小さなロングシートがあって、運転士の後ろには小さな女の子とお婆さんがいた。反対側は青年がひとり乗っていた。私はその中央、貫通扉の後ろに立った。もとより立って過ごすつもりだ。座ってしまうと視界が狭くなる。女の子も座ってしまうと前が見えなくなるから、立ったり座ったりしている。
印旛沼と広い空
線路が緩やかに右へカーブして、少しずつ高度を上げた。高架線まで登りつめると、周囲に水田が広がっている。左の奥のほうに水面が広かってきた。印旛沼である。地図で見るとさほど大きく感じないけれど、なかなかの広さである。湖と呼びたいけれど、湖と沼の違いは広さではなく水深だという。沼のほうが浅い。沼は水が濁っている、水温が高いという印象は、水深の浅さによるものらしい。水温は高いと思うけれど、濁っているとは限らない。ここから見る印旛沼の水面は青く美しい。
印旛沼が後方に去って、再び前方を注視する。直線の複線がスラリと延びて美しい。こういうところで使っていいかどうか分からないけれど、清潔感がある。寝そべって日光浴でもしてみたくなる。こんな景色はスカイライナーでは楽しめない。私はアクセス特急にしてよかったと思った。
スカイライナーが時速160kmを出す区間
アクセス特急は時速120km
正面に丘が迫り、トンネルに突入した。その出口が成田湯川駅だった。スカイライナーとアクセス特急の違いは車両だけではなく、次の成田湯川駅に停まるか否かである。せっかくアクセス特急に乗ったからには、成田湯川で降りてみようと思ったけれど、この眺めで満足した。私鉄では珍しいというノーズ可動型ポイントの様子も確認できた。成田湯川で降りても、何も無いという話だし、このまま成田空港へ行くと決めた。
成田湯川駅
線路手前がノーズ可動ポイント
成田湯川駅は線路が4本。中央に通過線があり、側線に対向式ホームがある。上り側線にもアクセス特急が停まっていた。こちらも側線に停車した。3人くらい乗車客があった。振り返ると、数人の降車客もある。何も無いところはいえ、駅があれば利用する人はいる。上下とも40分に1本しか列車が来なくても、田舎のローカル線よりはずっと便利だ。
なかなか発車しないな、と思いつつ、前方をぼんやり眺める。女の子がなにかしゃべっていたら、運転士が窓に暗幕を降ろしてしまった。続いて私の前のガラスにもパシャッと幕をおろした。古いカメラのシャッターのようだ。まだ明るいけれど、この先で成田空港の地下トンネルに入る。この暗幕は運転席窓の映り込みを防ぐためである。それはわかっているけれど、運転士があまりにも無造作だったので、まるで絶交されたような気分になった。女の子もおばあちゃんに「私がうるさかったのかな」などと言っている。ショックだったかもしれない。説明してあげようかと思ったけれど、お婆さんがうまくなだめたようだ。
私は右側に移動して、幕が下りていない窓で前方展望を確保した。上りスカイライナーがやってきた。さっき印旛日本医大駅で見送った車両だろう。その通過を待って、上りのアクセス特急とこちらの電車が発車した。こちら側は追い越しがなかった。しばらく進むと4本の線路が2本になり、複線は単線へと集束した。ああそうか、ここから単線になるんだっけ。私は記憶の底に埋もれかけた知識を掘り起こした。
JR成田線の線路と並ぶ
ここから先、景色は少し建物が増えるくらいで凡庸だ。しかし線路が面白い。線路が少し高くなり別の線路を跨ぐ。別の線路がこちらの線路と並ぶようにせり上がってくる。JR成田線の線路である。ここからは成田空港の関連会社が保有する線路で、JRと京成が1本分ずつ間借りしている。本来は成田新幹線の複線用地であった。
どちらも単線で、お互いらに線路の幅が違うから、合わせて複線としては使うわけにいかない。かなり距離があるから、途中に列車をすれ違わせるための信号場をそれぞれ設置している。並んだ線路を眺めて、成田エクスプレスとすれ違うか、あるいは追い越されたりしないかと期待したけれど、JR側の列車とは出会わなかった。東日本震災に由来する節電で、あちらは運行本数を減らしているからだ。
空港第2ビルの地下駅コンコース
京成電鉄は成田スカイアクセスだけではなく、既存の京成線からも成田空港へ乗り入れている。その分岐点までが私にとっての未乗区間である。どこで合流するのだろう、思っているうちに、空港敷地の地下に入ってしまった。合流地点は空港第2ビル駅の直前だった。単線同士が合流して、また分岐して島式ホームになっている。ほんのちょっとの単線区間であった。いっそ複線にすれば、もっとダイヤを組み易くなるのに。つまらないところで節約したな、と思う。
空港第2ビル駅で降りて、JRに乗り換える。検査場で運転免許証を提示して、JRの改札で青春18きっぷを見せた。ホームへ降りて時刻表を見ると、なんと各駅停車は1時間に1本。京成のアクセス特急より少ない本数だった。ここからJRの成田駅に行きたいけれど、京成で成田へ行ったほうが良かったかもしれない。でも、もう一度成田スカイアクセスの線路を眺めてみたくもあり、各駅停車を待った。
横須賀線直通のエアポート快速に乗り、今度はJRの展望を眺めた。左後方からスカイライナーが勢い良く追い越していった。私が京成の社長なら、スカイライナーが成田エクスプレスを追い越す見せ場をいっぱい作るだろう。関西の私鉄ならきっとそうするはずだ。今後、ダイヤ改正のたびに、この区間をチェックしよう。
JRの電車をスカイライナーが追い越していく
より大きな地図で のらり 新汽車旅日記 388
を表示
2011年05月17日の新規乗車線区
JR: 0.0Km
私鉄: 10.7Km
累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):18,446.6Km (81.30%)
私鉄: 5,686.9km (80.91%)
|
|