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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第441回:王寺駅前散歩 - 関西本線・和歌山線 -

更新日2012/09/27



天橋立、小浜をめぐり、旅の目的はほぼ達した。それではなぜ敦賀から奈良まで130kmも南下したかというと、関西本線と和歌山線の未乗区間に乗りたかったからだ。関西本線の奈良と王寺の間は、高校時代の旅でコースから外して残ってしまった。和歌山線は8年前の南海完乗の旅で乗れなかった。近畿圏は路線網が複雑で、そのうちに乗れるだろうと思っていた。とはいえ、8年前と30年前である。旅の続きというより、新たなる旅の心境であった。


大和路快速で大阪方面へ

奈良駅でみやこ路快速を降りた。このホームは大和路快速も発着する。みやこ路快速は奈良で折り返すから、ここから乗ればすべて京都行きである。しかし大和路快速の奈良折り返しは半分。あと半分は関西本線の高田まで行く。奈良は途中駅のひとつである。地理に不案内だと間違えそうで緊張する。

緊張した理由はもうひとつ。私の行程表にあった。奈良着15時48分。奈良発16時38分天王寺行き。なぜか小一時間空いている。自分で組み立てておいて、なぜ奈良でこんな時間を設定したか思い出せない。たぶん、この先で、どのように乗り継いでも同じ列車に乗り継ぐことになったのだろう。だから、何もなさそうな駅より奈良で時間を潰そうとしたか。確かに奈良は古都であるし観光地でもある。しかし、見物には短すぎる時間である。


春の車窓

予定を早めて、15時57分発の大和路快速に乗った。途中駅は三つ。大和路快速はすべての駅に停まる。郡山はベッドタウンだが、近鉄橿原線をくぐった先の大和小泉も住宅街。ただし、駅から少し離れて工業団地があり、キャンディの、いや、こちらではアメちゃんの、『味覚糖』の工場がある。

その次の駅は法隆寺。やっと奈良らしい駅名があった。世界遺産の法隆寺の最寄り駅だ。京都奈良は修学旅行の定番だというけれど、私の場合、中学時代は「高校で行くからいいだろう」と東北になったし、高校に上がれば「中学時代に行った人が多いから」という理由で岡山倉敷になった。だから、なんとなく自分の中で日本人としてなにか欠けているような気がしてならない。法隆寺も一度はしっかり見たいと思うけれど、今回は通過する。一人旅より、修学旅行のような団体で訪れたい。

王寺着16時12分。次の和歌山線の電車は17時01分。なるほど、奈良をパスすると、ここで時間が空くわけだ。周囲はショッピングセンターや雑居ビル、マンションなどがあり、ベットタウンの中心といった趣である。下調べをしておけば、なにか面白そうな店もありそうだ。しかし、いつものように行き当たりばったりだから、どこに行くでもない。周辺地図を見ると、ここは大和川とその支流に挟まれた土地だった。


王寺の町を散歩する

川を見に行こう。私は歩き出した。マンションと雑居ビルの間の道。どこにでもあるような街。まるで何年もここに住んでいるような錯覚に陥る。なにしろ正面は餃子の王将だ。つまり、落ち着く。

川幅が狭く、どうやらこちらは支流の葛下川だ。大和川は奈良県に発し、西へ流れて、河口は大阪市と堺市の間の境界である。そういえば南海高野線、南海線で渡った。阪堺電軌に乗ると大和川を境に料金が変わった。この水があの河口に注ぐのか……。土手の歩道で犬を散歩させている人がいる。春の良い陽気である。それにしても、なぜこの土手には桜を植えないのだろう。良い景観になりそうだけど。


和歌山線で橋本へ

駅に戻る。和歌山線の電車は105系。すでに入線しており、やや混雑している。座席がすべて埋まって、つり革の半分くらいが塞がる状態。学生や早番の勤め人の帰宅時間、買い物帰りのオバチャンたちが乗っている。そんな和歌山線の車窓は通勤路線そのもので、ロングシートから首をねじ曲げて眺める程ではなかった。

家路をたどる人々に囲まれていると、旅人には寂しい時間となってしまう。日が暮れて、遠くに沈む夕日を観た。その時だけは首を後ろに向けていた。もっとも、ほとんどの人が降りてしまい、ロングシートに横向きに座っても許されそうではあった。


近鉄吉野線と同じホームに停まった

まだ明るいうちに橋本駅に着いた。このまま和歌山へ行き、阪和線に乗れば18きっぷだけで大阪梅田まで行ける。しかし私はここで降り、南海電車に乗り換えた。中百舌鳥まで行き、そこから地下鉄御堂筋線に乗りたい。大阪市営地下鉄には未乗区間が多い。こんなふうに他の日程と組み合わせて、なにかのついで……という感じで乗りたい。


橋本駅。なぜか"まことちゃん"の像がある

日は暮れてしまったけれど、南海高野線はすでに昼間に乗っている。だから今回は移動手段だ。橋本発は急行で、北野田で各駅停車に乗り換える。このパターンには既視感がある。8年前に高野山から降りてきて、中百舌鳥から泉北高速に乗った時と同じだ。今回はもうひとつの接続路線、御堂筋線に乗り換える。やっと再訪できた。


南海の急行で移動

この御堂筋線で梅田へ向かう。今夜、梅田発のバスに乗るためである。未乗区間は中百舌鳥から大国町までの12.8km。全区間が地下で、車窓のない地下鉄の踏破には問題ない。こんなふうに、少しずつ乗っていけば、いつか複雑な路線網も乗り潰され、残った未乗路線が次のルートを示してくれる。


夜の中百舌鳥駅

-…つづく

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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