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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第444回:スキー場も振り替え対応 - 上越線 越後湯沢―ガーラ湯沢 -

更新日2012/10/18



越後湯沢駅は何度か降りた。いずれも上越新幹線からほくほく線経由の特急はくたかに乗り継ぐためだ。その乗り換えの道順には慣れていたけれど、今日は勝手が違う。初めて在来線下りホームから新幹線ホームに上がる。その前に改札を出て、きっぷを買い直す必要がある。越後湯沢からガーラ湯沢までは乗車券と特急券が必要で、青春18きっぷでは乗れない。

自動販売機できっぷを買う。乗車券が140円。特定特急券が100円。240円でひと駅だけの新幹線の旅である。ややこしいけれど、越後湯沢駅とガーラ湯沢駅の扱いは新幹線ではなく在来線で、上越線の支線扱いだという。しかし、ほとんどの列車は東京から上越新幹線たにがわ号としてやってきて、ガーラ湯沢駅へ直通する。


ガーラ湯沢行き。ほぼ1時間に1本

新幹線だけど新幹線ではない。このややこしさの理由は、新幹線が全国新幹線鉄道整備法によって作られた路線と定義されるからで、越後湯沢とガーラ湯沢の間はその定義から外れるからだ。線路自体は新幹線整備の一環として造られ、ガーラ湯沢駅には新幹線の保線基地がある。しかし、営業は新幹線整備ではなく、JR東日本のスキー場開発プロジェクトとして始まった。つまり、国の新幹線整備網のあずかり知らぬところだ。


2階建て新幹線でひと駅の旅

新幹線改札口に入ると、新幹線とは別に小さな発車案内表示器が架かっていた。ガーラ湯沢行きの発車時刻が三つ。予定通りの運行で安心する。ただし、一番下の案内欄はガーラ湯沢スキー場営業休止とある。やっぱりゴンドラには乗れないらしい。それにしても、目的地のスキー場が休みで、なぜ列車は走るのだろうか。鉄道は勝手に運休してはならぬというお達しだろうか。いや、従業員など用事のあるお客がいるのだろう。そんな考えをめぐらせながらホームに上がる。


10時31分発のMAXたにがわ311号は、東京駅を08時37分に発車したMAXとき311号に連結されて越後湯沢駅に到着した。2階建て新幹線の16両編成は壮観だ。ここで二つの列車が切り離されて、MAXとき311号が先に発車する。残されたMAXたにがわ311号は空いていた。スキー場は休みだし、日帰りのスキー客は出発を取りやめる。だから空いていて当然だろうけれど、スキー客がいないわけではなかった。天候回復、営業再開に僅かな期待を持っているのだろうか。今日は泊まって明日、という予定かもしれない。


上越新幹線の高架下を行く

スキー客の心配はどうでもいい。彼らには気の毒だが、私の目的は線路である。進行方向左側の窓際に座った。たったひと駅だけど、このひと駅のために朝早く家を出て、4時間も各駅停車に揺られてきた。しっかり見届けよう。列車は静かに走りだす。外は雪景色。線路は上越新幹線の複線の外側、もっとも左の線路を走る。しまった、こっちの窓から線路の模様は見えないか。こちら側は雪が積もった商店ばかり。


ここで上越新幹線とお別れ

列車の高度が下がり、車窓にコンクリートの橋脚が通り過ぎる。つまり、上越新幹線の線路の真下に入ったわけだ。そこから右に逸れて高架橋の下から抜け出し、車窓に上越新幹線の高架が見えた。そしてお互いにトンネルに入る。トンネルを出たらそこはもうガーラ湯沢駅の構内だ。駅は屋根に覆われている。たった3分の乗車であった。


ガーラ湯沢駅は保線基地に隣接

ホームに出て、しばらく辺りを観察する。西側は斜面、東側に保線車両の留置線。なるほど、たしかにここは保線基地だ。数少ないスキー客らしき人々が歩いて行く。私はその流れに逆らって長いホームを往復した。振り返ると辺りには誰もいなかった。私の目的は終わった。

スキー場は休止している。しかし列車が来たからには、なにか見どころはあるだろう。私は改札口に向かった。駅舎を見物したいし、帰りのきっぷも必要だ。エスカレーターは私だけのために動いていた。それが申し訳ない気持ちになる。ホームから改札口は見えないけれど、どこかに監視カメラがあって、私が改札口を出るまで係員が待っているはずだ。


閑散としたホーム

改札口を出て、通路はそのままスキー場のフロントにつながっている。その先がロビーだ。スキー場の案内放送で、営業休止と他のスキー場への振り替えを説明している。なるほど、通勤電車の振り替え輸送と同じで、スキー場も休止すると付近のスキー場に振り替えてもらえるらしい。それで列車は動いていたわけだ。階段を降りていくと、他のスキー場の送迎バスを待つ人々がいた。

私はバス乗り場の出入口を出て外に出た。雪がこんこんと降っている。コートのフードを被り、駅前広場を一巡する。駅舎の写真を撮ろうとしたけれど、意外と大きな建物でカメラのファインダーに入らない。レンズを上向きにすれば雪の粒に覆われる。それでも何度かシャッターを押し、冷たくなった指先をコートのポケットに突っ込んで駅に戻った。


色彩豊かなロビーフロア

どうやらガーラ湯沢駅は本当にスキー場のためだけに造られた駅であった。駅の外は駐車場のみ。斜面側の出入口も封鎖。そこはスキーで降りてきた人専用らしい。ほかにはスキー場のフロントとロッカールーム。いくつかの飲食店、そして土産物屋が並んでいた。飲食店は見極めが早く、もう店じまいの様相であった。駅弁を食べておいてよかった。

スキー場のフロントの上の液晶画面に「営業休止」と大きく表示されている。その奥のゴンドラ乗り場も塞がれている。係員が立っているけれど、彼らは振り替えスキー場の案内役のようであった。フロントに戻り、退屈そうな若い係員に「これから天候が回復してもゴンドラは動かいなのか」と聞いてみた。「もう決めてしまったことですので……」とのことであった。


やはりゴンドラは休止のまま

ゴンドラに乗れず、その先のレストランのジャンボカツ丼も食べられない。本来の目的は達しているとはいえ、なんだか煮え切らない。いつかもう一度来てみようか、いや、スキーもしないのに二度も来るか。それより、せっかくこれだけの設備を造ったからには、夏もなにか催せばいいと思う。私は学生時代、夏の菅平スキー場でパラグライダーに挑戦した。恐怖はなく、強い力で空に引き上げられる。その感覚を思い出した。夏の斜面だって面白いと思うし、この支線に夏も乗りたい。


雪国らしく、施設をすっぽり覆った巨大な駅舎

-…つづく

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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