第二十七回
風姿花伝 その四
神儀ということについて
申楽の始り その一
一、申楽(さるがく)の始りというのは、天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩戸(あまのいわと)に籠(こも)ってしまわれ、天下がすっかり闇に覆われてしまったとき、八百萬(やおよろず)の神さまたちが、天香久山(あまのかぐやま)に集まって、なんとか大神のお気持ちを引こうと考えて、神楽を演奏し、続けて、舞を舞う細男(せいなう)を行われた。
その舞手のなかに、天の鈿女(うずめ)の尊(みこと)が進み出られ、榊の枝に幣(しで)をつけて、声をはりあげ、火處を焚き、足を踏みならして、神懸かりとなって、歌い、舞い、楽器を演奏した。その声がかすかに聞こえたために、大神は天岩戸を少し開けて外のようすを見ようとされた。そのとたん、国土は再び明るくなり、神々たちのお面(かお)も白く明るくなった。その時のお遊びが、申楽のはじめだとか。詳しくは口伝に記したとおりである。
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