■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

金井 和宏
(かない・かずひろ)

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
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第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
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第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
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第151回:私の蘇格蘭紀行(12)

第152回:私の蘇格蘭紀行(13)

■更新予定日:隔週木曜日

第153回:私の蘇格蘭紀行(14)

更新日2009/10/22


ハイランド・ゲームズの聖地
4月11日(日)、今日は一昨日のタクシーの運転手さんに、行くことを強く勧められた街Braemarに行くことにした。この地名は、私にも結構上手く発音できて、B&Bの女主人の方に"Very Good!"と褒められてしまった。「ブー」と溜めた後、舌を巻いて「ルルレーマー」という感じ。日本だったらちょっと恥ずかしいかも知れない。

宿の前からバスに乗り、スコットランド一眺めがよいと『地球の歩き方』にも書かれていた、ディー川沿い(Deeside)のルートA93を2時間あまり走った。さすがに車窓の風景は美しい。私の生まれ故郷の長野県富士見町にスコットランドの田舎の風景は似ているという人がいたが、清流の感じなど、その意見に頷く場所がいくつかあった。

Braemarは寒かった。本当に寒いのだ。牧草を食む羊などを見ながらディー川の畔を歩いたが、備え付けの小さな電光の温度計を見たら8℃くらい。体感ではもっと低い感じがする。1時間少し歩いたが、お腹が空いてきたことと、何よりも暖を取りたくなって、たまらずレストランに入った。

ここのサーモンのパイ包み焼きは本当に旨かった。まさにディー川で釣ってきた新鮮なサーモンを使っているのだろう。絶品である。昼夜は、ごく質素な食事しか入れてもらっていなかった私の胃袋が心底喜んでいるのが分かる。

「ビールをください」と言いたいところだったが、あまりの寒さに、帰りの2時間近くのバス車中でトイレの我慢に自信がなかったため、コーヒーを頼んでしまった。そう言えば、バスを降りてすぐに買ったミネラルウォーター『ハイランド・スプリング』も、まだ栓を開けず仕舞いだ。

食事の後、毎年夏になると王室も招いて行なわれるハイランド・ゲームズのグラウンドを見学した。ハイランド・ゲームズとは、スコットランドのハイランド地方の各地で行われるスポーツ競技会および民族意識を確認する音楽、舞踏、衣裳コンテスト大会である。

スポーツ競技会では、キルトを着た大男たちが、丸太棒、おもり、石、ハンマーなどの投擲で力自慢を披露するという、どこか牧歌的なものであるらしい。

この地で開催されるハイランド・ゲームズは、殊に"Braemar Gathering"と呼ばれ、スコットランドでも最も有名な大会だそうだ。ところが行ってみると、ただの広場なのである。何とも仰々しくなくてとてもいい感じなんだなあ。

エリザベス女王が観戦する場所も実に質素な趣である。けれども、グラウンド脇に写真入りの説明で「女王陛下は、これこれこうお席を設け、こう飾り立てをして、このように美しく席を整えてからお迎えするのです」と書かれた看板が立てかけてあったので、納得したのだった。

観光に訪れているのは、すでに会社勤めはリタイアしたと思われるご夫妻が多く、みんな仲良く歩いていらっしゃる。一人の初老の紳士に声を掛けられる。「どこからですか?」、日本からやってまいりましたと答えると、「それは遠いところからわざわざ、ようこそいらっしゃいました」と話してくださった。

東洋人であることが珍しいこともあるだろうが、とても人懐かしい人が多いことは間違いないようだ。帰りのバスでは、心地よい暖かさもあり、ずっと眠り続けてしまった。

宿に帰ってテレビをつけると、5ヵ国対抗ラグビーの最終戦、ウエールズ対イングランドの試合の後半の中継をしていた。やはりイングランドは強い。僅かながらリードしていた。ところが、試合終了の直前になってウエールズが逆転を果たす。

ノーサイドの笛が吹かれた瞬間、32対31というスコアでウエールズが勝ってしまったのだ。これで、スコットランドとイングランドは4勝1敗で並んだことになるが、全試合の得失点差により、この瞬間スコットランドの優勝が決まったのだ。

何という幸運、私がこの国に滞在中、スコットランドは9年ぶりの、そして5ヵ国対抗ラグビー最後の優勝!!

テレビの画面を追うと、ウエールズとイングランドの元代表選手のゲストとともに、元スコットランド代表で、この国最強のフルバックと呼ばれたギャビン・ヘイスティングがゲスト出演していた。

2国の元代表選手に、「タナボタの優勝だね」というようなことを言われ、からかわれながらも、さすがにうれしそうにコメントしていた。前回の優勝は、彼がチームを引っぱって果たされたものだ。

ヘイスティングは、最後に、「これで、今秋行なわれるワールドカップに大いに弾みがついた」と力強く結んだ。前回のW杯では不本意な成績に終わったスコットランド、今度は日本に帰ってからの応援になるが、是非、がんばって南半球のどこかの国には勝ってもらいたいものだ。

ベッドに入ってからもうれしくて笑いが止まらなかったが、さすがに昼の疲れが出て、あっという間に眠りに就いてしまったようだ。

-…つづく

 

第154回:私の蘇格蘭紀行(15)