■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第32回:Point of No Return

更新日2002/03/26 


ある日、我が家の新Terrible Two(2才5カ月)である ふみは、おやつと牛乳で生きて行くことに決めたようだ。朝食と昼食は普通に食べるのだが、夕食になるとなぜか食欲がぐんと落ちるらしい。最初の2、3日は、まぁそういうこともあるかと思い、「いいよ、食べたくないなら残しても」とこちらもゆったりと構えていた。

だからだろうか。4日目、敵は夕食に少し手を付けただけで、「もういい」とさっさと終わらせた。「子どもが言うことを聞かない時の対抗策 その1」の「子どもが楽しみにしていることをとりあげる」に従って、「御飯をちゃんと食べない人にはデザートはないのよ」と、くり返し警告したのだが、わかっているのかわかっていないのか、「うん、うん」と頷くばかりでまったくらちが開かない。こちらも諦めて「じゃあ、おわりにしてもいいよ。でもデザートないからね」と言い渡したが、その後、ふみは案の定「なんな(バナナ)、ちょーだい」と言いだす。「だめ!」と断ると、「あ、そ」とばかりに一人で遊びはじめてしまった。

ゆっくりと食事を終えた上の子どもにデザートのりんごをむいてやると、やっぱりいそいそとやって来て「ふみにょん、んご、たべう~」(日本語訳:ふみもりんご食べる)と言う。「だ、め、よ!!」ときつく言い渡すと、なんと敵は私を攻略するのを諦めて、上の娘に直接交渉を始めるのだ。「あーちゃん、んご、ちょーだい」。ぴったりと横に座って、食べている間中ずうーっとそう言われ続けている上の子もいい加減うんざりしたようで、「まま、ふーちゃんにあげてもいい?」と聞く。そうすると、ふみは嬉しそうな顔をして「い~い??」と私に満面の笑みを向けてきた。「だ、め!!」。すると、明らかに「ちぇっ」と言う顔をして去ってゆく。なんと打たれづよい!!

さて、翌日も夕食の時間がやってくる。デザートと言う特典を取り上げても痛くも痒くもないようなので、次は最大の弱点かつ最後通牒「一人でねんね」を突き付けてみる。「ふーちゃん、ごはんをちゃんと食べないと今日は一人でねんねよ。ママもたまちゃんも一緒じゃないのよ」。しかし、敵は私の言葉を理解していない、というよりは「きっとママはそこまではしないも~ん」という雰囲気を漂わせながら「い~の」と今日もやっぱり夕食をまったく食べない。今度はこちらが「あ、そ」と言う番。そっちがその気なら、こっちだって本気なのだ。

ふとんを敷く時、ふみの布団だけを子供部屋に移す。最初は事態をまったく理解していないふみは「ねんね~」などと上機嫌でいつもとは違う部屋にある布団の上で転がって遊んでいる。そして。「じゃ、おやすみ」とナイトランプだけつけた部屋のドアをふみ一人残して閉めた。

泣きましたね。アメリカだったら間違いなく警察が幼児虐待の疑いで踏み込んでくるだろう、というくらい。上の娘は「ねえ、ママ。本当にふみちゃんは一人で寝るの? ふみちゃん、泣いてるよ。かわいそうだよ」と、ほろりとさせるようなことを言う。けれども、最後通牒を突き付けたのに相手がそれを無視した以上、こっちだって引けないのだ。私だって遊びでやっているのではない。本気なのだ、ということを子供達にわからせなければならない。

もちろん、私が寝る時にふみも私達が寝る部屋に移してやる。そして、翌日も「一人でねんね」をさせられたふみはさすがに「ママは本気だ。ちょっとまずいかも」と思ったのがどうか、夕食を3分の1は食べた。よしよし。

そして、現在は全部……とはいかないが、半分は食べるようになった。
はあ。ほんとに、母親も楽じゃないよね。

 

→ 第33回: かみさまは見えない