■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第10回:ママたちがママたちへ、母の日のプレゼント

更新日2001/06/12 


マザーズクラブでは母の日のイベントとして毎年やることがある。

私たちが住んでいた地域のそばにイースト・パロアルトと呼ばれる地域があった。一時は全米でも犯罪率が上位にくるような地域だった。そこには、女性の駆け込み寺のような施設がある。夫の暴力から逃れるため、自分の行ないを正すため、女性があるいは母親が、いろいろな理由で子どもを連れて着の身着のままで逃げ込む場所だ。そこにいる女性たちに、化粧品や身の回りの品を贈ろう、という企画だ。お金でも食べ物や服でもなく、困難の中にある女性に、女性らしさを忘れないように、その手助けになるように、という気持ちを込めて化粧品を贈るのだ。

アメリカでは、化粧品会社がキャンペーンと称して、一定金額以上(たいていは$15くらい)の商品を買った客に化粧品のセットを「ギフトセット」として配ることがある。このキャンペーン、各メーカーが時期をずらして実施するので、常にどこかのメーカーがやっていることになる。

そのセットは、日本でいうと「スターターセット」そのものである。あるときの「クリニーク」のギフトセットの中身は、そのシーズンの新色の口紅が2本。マスカラが1本。新色のアイシャドウ1個。以上はすべて市販品と同じサイズである。それに、トラベラーズサイズの乳液と洗顔料が1本ずつ。それに、ヘアブラシ。それを全部入れられる化粧ポーチ。それぞれの品のケースは定価で売っているものに比べると、いかにもシンプルなプラスティックなのだが、中身はまったく同じものである。

渡米してまもなくの頃はどうしてこんなにも豪華なものをくれるんだろう、と不思議だったくらいだ。でも、気がつくと、色が好きじゃないとか、匂いが気になるとか、チークは使わないとかいろいろ不満もあって、使わないまま少しずつ物がたまっている。そういった、家で余っている化粧品を集めてきれいに包装して贈ろう、というのである。

もともとがタダでもらったものなので、寄付する人の負担はゼロだ。私も数人の友人に声をかけて頼んだところ、あっという間に小さな段ボール一箱分が集まった。使わないけど捨てるのもなぁと思っていたモノであっても、人のお役に立てるなら、と思うと結構気前はよくなるのだ。

こうした化粧品や、ホテルなどに泊まったときに置いてある小さなサイズのシャンプーやリンス、ボディミルク、石鹸などなど、なんでもいいのだが、もちろんすべて未使用のものに限る。そして、それを4月の定例集会でみんなで包装する。プレゼント用の小さな袋も地元のラッピングメーカーにイベントの主旨を話して寄付してもらったものだ。

お菓子をつまみながら、雑談を延々としながら、流れ作業であっという間に集まった化粧品は、優しいオレンジ色の小花模様の透明な袋に詰められてゆく。同じオレンジ色のリボンで袋の口をきゅっと縛ってできあがり。一見すると、ギフトショップで売っているちゃんとした商品のような出来栄えだ。

「Mothers help Mothers」。それが合い言葉だった。「母親同士で助け合おう」「困っている母親に手を差し伸べよう」それができるのは私たちマザーズクラブしかないんだから──その自負心があっぱれだ。

 

→ 第11回:叱る前に話を聞け