■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第16回:アメリカン・ハズバンドvsジャパニーズ・ハズバンド

更新日2001/07/24


公園で子どもを遊ばせている間に母親同士で話していると、もちろんいつも建設的な話題ばかりではない。ときには愚痴っぽくなることだってある。

その日、口火を切ったのはキムだった。彼女は前日に出かける用事があって、1才のナタリーを夫のマイケルに預けて長い外出をした。帰ってドアを開けてみると、ナタリーはパンパンにふくれたおしめをしているし、唖然とするくらい家のなかが荒れていたと言うのだ。

マイケルはメンバーの夫のなかでも「こまめ」と評判の人だったのでちょっと意外な気がしたので、そう言うと、なんとその場にいたメンバー4人から「そんなの意外でも何でもないわよ!」との大合唱を浴びた。「カオリにはサム(私の夫の英語名)という素晴らしい人がいるからわからないのよ!」

たしかに私の夫は時間があれば子どもの面倒は見てくれるし、言えば何でもやってくれる。おしめだって替えてくれるし、買い物だって会社の帰りにしてきてくれる。ということをプレイグループのメンバーは知っているので、みんなこう言うのだ。「いいわよね。日本人のダンナ様って何でもしてくれて」

「ちょっと待って。日本じゃアメリカ人のダンナ様は家事だって子育てだって何でも手伝ってくれるって評判なんだけど」 そう言うと、トーリーは冷たい視線を私に向けて言った。「それって、どこのアメリカ?」 それからあとは、いかにアメリカ人の夫たちが「わかってないか」をみんなに切々と語られる羽目になった。

キムが言う。「たとえばカオリがサムに環を預けて出かけるとするでしょ。帰ってみると、環はちゃんときれいなおしめをしている?」「そうね」「ほらね。日本人のダンナ様はこまめなのよ」

トーリーが言う。「たとえばサムは環がいつも履いているおしめのブランドを知っている?」「知ってるよ」「じゃあ、そのおしめを買ってきてって頼んだときに、そのブランドがスーパーになかったとしたら、替わりの他のブランドのものを買ってくる?」「そりゃ、買ってくると思うよ」「ほらね。サムはちゃんとやる気があるのよ。ブラッドなんかおしめが残り1枚だって知っていても『いつものはなかったよ』って、平気で手ぶらで帰ってくるのよ!!」

ジュディが言う。「サムはあなたの作る食事に文句を言う? 昨日と同じものだったら文句を言う?」「言わない。出したものを食べる」「ほらね。日本人のダンナ様は奥さんがいかに大変かってちゃんと理解してくれているのよ。うちなんか、昨日の残り物を出したら、『これは食事じゃない』って言うのよ!」

おかしい。こんなはずではない。私の信じていたアメリカ人の夫像ががらがらと音を立てて崩れていく。

最後にトーリーがこう言った。「結局、アメリカ人の男っていうのは何にもわかってないのよ。生活感覚ってものが完全に欠如していて、それをちゃんと理解しようという気すらないの。だから、いくら言ってもわからないのよ! 私も日本人と結婚すれば良かったわっ!!」

 

→ 第17回:夫とデート