そして、3人目を産みたい人が埋めないもう1つの理由となる子どもの「教育費」の話。
最近の日本でもそうだが、アメリカでもやはり公立の教育機関への信頼感は低下しつつあるようだった。子どもが小さくてまだやっと幼稚園という年齢だったので、私の実感としてアメリカの公立学校のレベルについては語れないのだが、プレイグループのメンバーは「できれば私立に行かせたい。小学校や中学校はともかく、高校からは経済状況が許せば私立に」と言っている人が多かった。
その理由は大学である。アメリカには日本のような国立大学はない。アメリカは1つの国とはいえ、州によって選挙権を得る年齢もお酒を飲めるようになる年齢も異なっている。日本人の感覚からすれば州が違えば国が違うという感じである。日本の国立大学のかわりに、アメリカには州立大学がある。アメリカの市民権を持っていて、その州の住民であれば州立大学の学費は日本の国立大学なみである。けれども、アメリカの私立大学は極めて学費が高い。たとえば、私が住んでいたところの近くにある私立大学は、前アメリカ大統領クリントン氏の1人娘のチェルシーさんが入学したスタンフォード大学だった。
スタンフォード大学は、1年間の学費だけでも当時の日本円にして約200万円。そして、学生は最初の少なくとも1年間は寮に入らなければならず、その寮費や教材費、生活費を合わせると、はっきりとは覚えていないが、年間に400万円は軽くかかるなと計算した記憶がある。子どもの教育費に年間で400万円を払うというのはなかなか大変である。それは、アメリカ人にとっても同じだ。もちろん、教育ローンもあるし、成績が優秀であれば奨学金もある。アメリカ社会は、私はそれが正常だと思うのだが、日本のように有名な大学を出たからといって、その後の生活が保証されるわけではなく、あくまでも個人の能力によって就職できるかどうかが決まるので、大学に入ればよいというわけにはいかない。
そして、学費が安い州立大学はたいていレベルも高いので簡単に入れるわけではない。また、アメリカは日本のように「サラリーマン」という職業のカテゴリーはないので、高収入を得るためには医師や弁護士、エンジニアといった専門職に就かざるを得ない。同じ会社に勤めていても、男女の区別なく、専門職とそれ以外では給料には大きな差がある。そして専門職に就くためにはやっぱり大学に行かなくてはならない。
と、なるとやっぱり親としては子供に専門職に就いて欲しいゆえに大学に進むことを望むわけだ。そして、当然子どもの教育に関しては真剣にならざるを得ないわけである。とりあえず門外漢だった私は、国がちがっても親の悩みは変わらないものだなあ、と納得したのである。
→ 第23回:ニューヨークの惨事について私たちができること