のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第352回:大人になれない子供たち、子離れしない親たち

更新日2014/03/06



国公立大学の二次試験で、東北大学の入試試験が試験開始時間を30分遅らせるという小さな事件が起こりました。

一次試験や私立の大学入試の時にも、関東地方の大雪の影響で、受験開始の時間をずらす事態が相次ぎました。ですが、これらは自然相手、気象条件に伴う電車、バスなどのキャンセルや遅れを考慮してのことですから、そのような状況では最善策と言ってよいでしょう。

ところが、今回の東北大学の入試試験を遅らせたのは、教育ママ、パパたちだったのです。大学側は受験生のために仙台駅前から試験会場まで臨時バスを出していました。受験生の数に見合ったバスを試験開始時間に間に合うように運行していたのですが、我が子の受験に試験場まで付いていく父兄が多すぎて、300人もの受験生が仙台駅前に取り残されてしまったというのです。

仙台駅前では、係員が父兄は普通の路線バスを使うように誘導しようとしましたが、私しゃ、息子、娘から離れない、なんとしてでも一緒に受験会場まで行く…という父兄がバスを占領し、本来の受験生がバスに乗れなくなった…というのが実情のようです。

仙台市内や郊外に住む受験生は地の利がありますから、親に車で送ってもらったり、公共の乗り物で受験会場に行ったことでしょう。今回、仙台駅前に溜まっていた受験生の多くはヨソからやってきて、受験の前日、前々日から仙台市内のホテルに泊まり、この日に備えていたのでしょう。その間、最善のコンディションで試験を受けさせる…という名代のもとで、父兄がカイガイシク受験生たる息子、娘の世話をしていたのでしょうね。

私の甥っ子が、日本の文部省のネイティブ・スピーカーを期限付きで助手として雇うジェット・プログラムに応募し、面接まで行きました。彼は一種の日本狂で、まだ日本語で日常会話すらできないのに、漢字は3,000字ほど覚え、日本の地理、とりわけ秋葉原、渋谷、新宿界隈なら目をつぶっていても歩けそうなほどです。もちろん、日本のアニメから日本文化にアプローチしている新しい世代で、ミシマ、カワバタ、ゲンジとは別系統の日本マニアです。

彼が面接まで行ったのは素晴らしいことだと喜んでいます。たとえ、アニメ経由でも日本に住み、日本人の中で生活すればそれなりに見えてくるものもあるでしょう。

ところが、デンバーであった面接に、彼の父親が同伴して行ったのです。彼が住むカンサスシティーからデンバーまでは飛行機で40分、もちろん途中での乗り換えなんかありません。デンバーの飛行場からは市内に行くバスが出ているし、ほとんどすべてのホテルで無料のシャトルバスを出しているのです。彼のお父さんが、22歳の息子の面接のために会社を休み、デンバーまで付いて行ったと知り、本当に驚き、呆れまてしまいました。

というのは、その甥っ子が10歳の時、一人で飛行機をニ度乗り換えて、当時、私たちが住んでいたプエルトリコまで来ているからです。私のダンナさんが"一人で来ること"という条件をつけたせいかもしれませんが(親は来るな…とまでは言いませんでしたが…)、彼は一人で、途中で遅れが出て乗り継ぎ便に間に合わないという事態を乗り切って、無事、プエルトリコに辿り着いたのです。

それが、なんで22歳の大学4年生が、もう卒業するという歳になって親が付いていくの…と、まさにショックを受けました。

甥っ子の場合、10歳のプエルトリコ一人旅から逆行して、22歳の歳になって、お父ちゃんと一緒でなきゃ不安だ…というのではなく、親の方に問題がありそうなのです。親の方が子離れができず、息子の人生の大切な節目に、会社を休んでまで付いて行ったのでしょう。

東北大学での受験生に付き添った父兄は、おそらく自分たちが詰め掛けたせいで、受験生用のバスが満員になり、本来の受験生300人もの積み残しがでて、かつ時間通りに会場に着き、ジリジリしながら待たされた他の受験生がいたことなど、眼中にないのでしょうね。

自分の子さえ良ければ、他はどうなってもいいという、醜いエゴをさらしていることに気が付かないのです。いい歳になっても乳離れできない子ども、子離れできない親バカが量産されているように思えるのです。

うちの仙人、「オレが試験官なら、親が付いてくるようなガキは皆落とすな」と息巻いていました。

 

 

第353回:恐怖の白い粉、アンチシュガー・キャンペーン

このコラムの感想を書く

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで

第351回:アメリカの銃規制法案


■更新予定日:毎週木曜日