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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第351回:アメリカの銃規制法案

更新日2014/02/27



オバマ大統領が議会で通そうとしていた銃規制が骨抜きどころか、まったく否決されました。共和党が過半数を占める下議員議会でオバマ大統領がどんな法案を通そうとしても、まったくの無駄足になってしまいます。モチロン共和党は、アメリカで最もお金持ちで強力なNRA=全米ライフル協会(National Rifle Association)から盛大な政治資金を受け取っていますから、なんとしてでも銃規制の法案を潰そうとします。

国民の60数パーセントが銃規制法案に賛成しているので、共和党もさすがに世論を無視できず、一応、銃火器購入者の前科、精神病歴をチェックする条項だけは、形だけ通しました。

ですが、現実にはアメリカ国内で40パーセントの銃火器は、そのようなチェックなしで売られています。というのは、アメリカの合衆国政府の法案を実行する州政府に実行が任されているからです。州政府には、親方合衆国がそんなことにまで口を出すな、規制するなという風潮が強いのです。NRAの言い分では、悪い奴から身を守るためには、清く正しい良い市民全員に銃を行き渡らせなければならない……ということになります。悪い奴、良い人両方に銃を沢山買ってもらおうという魂胆のようです。

平均すると、毎日、32人のアメリカ人が銃で殺され、140人が銃で負傷し、病院に担ぎ込まれています。家庭内暴力、家庭内での暴発で死亡する人は、正当防衛で銃が使われるケースの22倍に及びます。

また、20歳未満の青少年が毎日8人銃で死んでいます(これらはChristian Science Monitor誌からのデーターです)。マサチューセッツ州のニュータウンの小学校での大量殺人事件の後ですら、アメリカ人の65パーセントは、学校の安全体制が十分でなかったことが原因と考え、30パーセントが銃購入の時の精神鑑定が不十分だったとしています(Gallup 調査による)。根本的に、アメリカ人には銃が凶器であるという思想に欠けているのです。

NRAはアメリカの全ての小中学校に重装備のガードマンを派遣、もしくは、銃火器を提供する用意がある言明しています。そこには銃で守らなければならない教育、自由、民主主義がいかにイビツなものであるかという認識のカケラもありません。

先週、お姑さんを見舞った帰り、一日に5本しか走っていないという超ローカルのバスに乗って帰ってきました。途中、そのバスを利用している小学生グループがドッと乗ってきました。バスの中がとたんに賑やかに明るくなりなりました。もちろん引率の先生なんか付いていません。子供たちは自分の責任でそれぞれの降りるバス停に近づくとボタン押し、バスを降り、そこから家に帰って行くようでした。コレがアメリカなら、銃を持ち歩いている凶悪誘拐犯がウロウロしていて、わが子を公共の乗り物で通学させるのは問題外なのです。

私たちが住んでいる山でさえ、郵便配達はなくても、スクールバスが子供たちを拾って学校まで運びます。しかも、スクールバスが止まる場所まで、親が車で送り迎えしています。スクールバス停から家まで私道のドライブウエイで10~20メートルの距離しかなくても、朝は子供たちがバスに乗るのを見届け、また夕方には車を連ねてスクールバスから降りてくるわが子を待っているのです。

ほとんどの人は自分は良い市民だと思っていますから、当然、悪い奴を撃つためのピストルを車のグラーブコンパートメントに入れていることでしょう。そこには、安全に対する徹底した不信があり、それが子供たちを守るための当然の処置だと信じている姿があります。

日本のように、子供たちが自分の責任で安全に通学できる国があるなどと想像もできないのです。銃を持たない社会がいかに安全であるかは、彼らの理解を超えているとしか思えません。

 

 

第352回:大人になれない子供たち、子離れしない親たち

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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