のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第459回:殺人の多い都市ランキング

更新日2016/04/07



アルカイダやIS(イスラム国)のテロが、アメリカやヨーロッパの町に無差別に起こるようになってから、どこそこの街が危ない、犯罪発生率、殺人率が高い、だから旅行者は気をつけましょうという警告、注意は意味をなさなくなってきました。

アメリカでは、大量殺人、銃の乱射事件が相次ぎ、マフィアやドラッグディーラー、ギャング団をして、「お前たちの方が、よほど無差別に、よう殺してくれるな…」といったところでしょうか。それでもまだ、人殺しがあまりに多すぎて、近づきたくない街、住みたいとは思わない街があります。

最近、ドラッグ業界、犯罪、殺人で、悪名高きコロンビアをすっかり追い抜いて、スターダムにのし上がってきたのはメキシコです。なんといってもドラッグの世界一大きな市場アメリカが隣に控えていますから、ヒョイと国境を越えるだけで莫大な儲けになる地の利を大いに生かして活躍しています。

そのメキシコのNPO調査機関が最も殺人の多い都市の50位までのランキングを発表しました。戦争当事国は除外し、公平を期すため?人口10万人当たり何人殺されているか…を示しています。町ごとの統計の他に、国ごとの殺人率も国連(UNODC)とかGlobalnote.comなどで覗くことができます。

危ない町ランキングでは、ベネズエラのカラカスがトップの座に輝いています。10万人当たり120人殺されています。カラカスの人口は329万ですから、この町で3,840人殺されていることになります。2位の栄誉はホンジュラスの2番目に大きな町サンペドロ・スーラで、10万人当たり116人、次の3位がお隣の国エル・サルバドールの首都サン・サルバドール、そしてメキシコのアカプルコと続きます。

危ない町トップ50のうち、なんとブラジルが21都市を占め、40都市が中南米なのです。他はアメリカの4つの町、ニューオリンズ、デトロイト、ボルティモア、セントルイス、そしてあとは南アフリカ共和国の都市です。偶然でしょうか、ミス何とかの美人コンテストの入賞者の多い国が犯罪、殺人でもトップクラスになっています。

私たちは同年輩の人たちに比べ、比較的よく旅行している方でしょう。しかも、観光ルートに入っていない国や地方にも行っているかもしれません。よく旅行している人たち、私たちもそんな傾向があることを認めないわけにはいきませんが、自分の体験、ほんの1週間、長くても数ヶ月程度の滞在の狭い見聞でその町、その国を判断してしまうのです。

犯罪大国のベネズエラに、私たちは都合7、8ヶ月いましたし、カラカスにも数回行きましたが、もちろんこうして生きているわけですから、私もダンナさんも殺されませんでした。それどころか、ベネズエラ人は底なしの親切な人たちだった…という印象を持っています。

ところが、マライカイボ湾でアンカーを入れていたヨットの仲間は、漁師か海賊かに襲われ、命からがら生き延びた…、もちろん警察も沿岸警備隊も何もしてくれなかった…と憤っていました。私たちと彼らではベネズエラの印象は180度違ったものになるでしょう。旅行者、外国人は所詮小さな針穴から外を覗く宿命にあります。

カリブ海に浮かぶ島々は、その一つひとつが一応国家です。その中のセント・クリストファー・ネイヴィスという島国は、殺人率9位、火山が爆発して少しは知られるようになった島国モンセラが19位なのです。この両方の島を2、3度訪れたことがあります。

人口数千人の国ですから、2、3年に1回殺人事件が起こると、それだけで10万人に換算した殺人率は跳ね上がることになります。その事件がたとえ外国人観光客同士が巻き起こしたものであっても、統計上の数字では、セント・クリストファー・ネイヴィスは危ない…ということになってしまいます。実際には両方とも殺人どころか、モノを盗まれる心配すらしなくていいような、ノンビリ、ユッタリしたところなのですが…。こんなところにも、統計のウソと呼んでいいのか、カラクリがあります。

さて日本、最近凄惨な事件が多くなったと…日本に帰るたびに聞かされますが、こと殺人に関しては最下位に近いGlobalnoteで211位(そんなに沢山の国があったのかしら)、国連の統計では105位(国連加盟国の中で)ととてつもなく安全な国なのです。

日本人が抱くアメリカのイメージは誰もが銃火器を持ち歩いていて、いつ殺されるかわからない、とても危ないところ、自由に都会の下町を歩き回ることができない国というもので、それは確かに当たっている面もあるのですが、国全体では10万人当たり3.8人しか?殺されていない安全ランキング112位の国なのです。

逆に私たちは頻繁に日本に行きますが、その都度、アメリカの友人、隣人から、「津波に気をつけろ」「地震と火事があんなに多いところにどうして行くのだ」「原発の放射能対策をしていけ」とか言われます。彼らのイメージの中では、日本は四六時中地震があり、火山が爆発し、津波が押し寄せ、空気は放射能で汚れ切っていることになります。マアー、それも多少当たっていると言えなくもありませんが…。

ですが、こと殺人に関しては、日本中どこを歩いていても身の危険を感じることはありません。誰がなんと言っても、日本は安全な国なのです。町や国ごとの殺人率のこと、統計のカラクリを書いているうちに、夜の盛り場を安心して歩くことができる国、日本は良い国だ…というアリキタリの帰結になってしまいました。

 

 

第460回:人材の宝庫、イギリスという国の底力

このコラムの感想を書く

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで

第451回:全米忍者選手権
第452回:日本の電気料金の怪
第453回:辞世の句、歌を遺す日本文化
第454回:ニワトリと卵の味
第455回:結婚しない人たち
第456回:夫婦者は長生きする?!
第457回:デジタルカメラ時代の写真
第458回:アメリカを支える移民たち

■更新予定日:毎週木曜日