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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第257回:天候不順と地球温暖化

更新日2012/04/26



数年前、私の生い立ちのような昔の中西部の田舎話を書きましたが、私の父方のおじいさん、おばあさんは、コロラド州でもカンサス州寄りのジェノアという村で小さな牧場と畑をやっていたお百姓さんです。

おじいさんもおばあさんも、私はよく覚えていますが、二人とも遠の昔に亡くなっています。そのおばあさんが、昔話として、アメリカ中西部を襲ったダストボールのことを語ってくれたことがあります。ダストボールはよく砂嵐と訳されていますが、砂というイメージより細かい土埃で、一度舞い上がると、雨が降って洗い流してくれない限り何時までも空を覆い、農作物に甚大な被害を及ぼすだけでなく、家の中に入り込み、気管や肺に障害を起こす恐ろしい自然現象です。

非常に細かい砂埃が太陽を覆ってしまうので、幾日も時には何ヶ月も太陽を見ることがなく、当然農作物は育たず、牛や馬が病気になって倒れ、家の窓枠に濡れたタオルを張るように回し、埃の侵入を防ごうとしますが、20~30分でテーブルの上は真っ白な埃を被ってしまい、当然、洗濯物を外で干すこともできず、家の中に下げて干すのですが、全部のシーツ、下着など白系のものはベージュに、それから茶色に染まってしまったと言います。

おじいさんもおばあさんも気管が弱く喘息持ちでしたから、さぞ大変だったことでしょう。それが原因で西へ、西へという開拓に逆行するように、コロラドの農場を手放し、東に向かいミズーリー州に移動しました。

こんな異常気象は何年、何十年に一度、自然現象として起きる止むを得ない事態だと思われてきました。日照りの続く年もあれば、雨の多い年もある、雨が極端に少ない年が数年続くと、大旱魃になり、ダストボールになる……というわけです。

ところが最近になって、ダストボールはむしろ人為的に造られたものであることが分かってきました。今まで雑草が覆い茂っていた大平原を牧草、とうもろこし、麦などの畑にしたのが原因だというのです。

雑草はその土地の条件に一番合った植物ですから、多少の旱魃程度で根の芯まで枯れることがなく、大地をしっかりと押さえているけど、あとから人間が持ち込んだ作物にはそんな耐久力がなく、十分な灌漑用水を確保せずに開発した畑、牧場は旱魃に弱く、ダストボールを産む原因なっていたことが分かってきたのです。

人間の小さな営みが、大陸規模、地球規模のお天気に影響を与えているとは、チョット想像しにくいことですが、紛れもない事実のようなのです。

毎日、通勤ドライブで山の急な77曲がりを(ホントはそんなにないのですが、ドラマチックに表現するため大げさにそう呼んでいます)降ります。大学のある町は、東西を山に挟まれた谷間にあります。地元の人は単にヴァリー、谷間と呼んでいます。とりわけ冬の期間ですが、上は晴れているのに、谷全体を濃い霧が覆い、下に降りて町に着くと、霧の煙の底に沈んだような気持ちになります。

風のない日にそんな霧が出るのは、冷たい空気が下に降り、底に淀むからだと思っていたところ、それだけでなく、家庭や工場で焚くストーブ、暖房の煙も影響しているというのです。冷たい空気でフタをされた、行き場のない煙が谷全体を覆ってしまうらしいのです。

町役場では、テレビや新聞、インターネットで家庭で薪や石炭のストーブ、暖炉、枯葉や枝を燃やしてはいけない日(No burn day)を設け、上空の状態、風の強さを見て公示しています。この谷だけの小規模なオゾン現象を防止するためです。

私は、それほど人のためになること、大きく言えば世界人類平和、幸せにためになる生き方をしているとは言えません。せめて、あまり地球を傷つけないで生き、死んでいったらいいなーという程度の至って次元の低い地球意識、社会意識しか持っていません。ですが、自分が意識しないところで、地球を壊しているかも知れず、ハッとさせられることがあります。

身近にできることいえば、排気ガスの少ない小さな車を使い、太陽電池と風力発電の比率を大きくし、企業べったりの地球温暖化など存在しないと公言している政治家に投票せず、生ゴミはコンポストにし、できるだけ石油化学製品を買わず……とできることはホントウに限られていることに飽きれ、同時に虚しくなってきます。

この地球上に生きていくということは、多くの排泄物を残していくことになるんでしょうか。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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~アメリカ中西部今昔物語
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