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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第880回:ヨットウーマン、エレン・マッカーサーのこと

更新日2024/12/19


またまたヨットの話ですみません。
まだ、海、ヨットへの郷愁が残っているらしいウチのダンナさんと、もう一度小さなヨットを買って、良いとこ取りの内湾、列島巡りでもしようかと話すことがあります。二人ともかなりの歳ですから、定期検診やら予防接種に忙しく、実現不可能に近いのですが、未だにボンヤリとした夢を抱いているのです。雑誌の記事やインターネットのニュースでも、海のこと、とりわけヨットに関したことにすぐに目が行ってしまいます。

少し前のことになりますが、16歳の少女が単独世界一周を成し遂げました。オーストラリア人のジェシカ・ワトソン(Jessica Watson)ちゃんです。それまでの記録は、たとえ一人航海であっても、寄港したり、ランデブーと呼ぶ、海上でサポートの船から支援を受けたりしていたのですが、全く無支援、無寄港で世界一周、210日間かかって母港シドニーに帰ってきたのです。

かかった日数だけから言えば、新記録ではありません。ジェシカちゃんより早く地球を一周した人はたくさんいます。でも、何といっても年齢16歳という歳が世界記録というのか、ヨット界を驚かせたのです。

最年少記録を争うのは、とりわけ生命がかかっている外洋レースでは危険が多すぎる上、本人の意思のほか、親やスポンサーの売名行為が絡んでくる、それに成人前のヨットマン、ウーマンに社会的責任を負わせることはできないし、どこの保険会社も保険をかけてくれないなどなどの理由で、ギネスブックをはじめ外洋帆走記録委員会でも、最年少を記録しない方針を決めました。

それにしても、16歳の少女が210日もの間、一人で激しく揺れ動き、冷たい潮風が吹き付ける中、海の水を何度も被ったことでしょうし、よくぞ乗り越えたものだと感心せずにはいられません。

私たちがまだヨットの現役?だった頃、といっても現役レーサーではなく、カリブの静かな湾内にアンカーを降ろしヨットで暮らしていただけですが、ヨット仲間のニュースの主な話題は、どこそこの島の地酒、ラム酒が安くて美味いかと天気予報、そして外洋レースのことでした。

エリック・タバリー(Éric Tabarly)などは、誰もが憧れる英雄中の英雄でした。海は男の世界と考えられていた時代でしたが、そこへフランス人女性ヨット乗りが割り込み、記録を塗り替えていったのです。フローレンス・アルトー(Florence Arthaud)、イザベル・オティシェたちは単独で、時には男性のクルー手下?を使い、記録を更新していったのです。

車の運転と同様、ヨットの操縦、操船に馬鹿力は必要ありません。それなりの装備、フィッテイングさえしっかりしていれば非力な女性でも充分対応できます。肝心なのは、長時間持続する意思力とあらゆる海況に対応できる判断力です。ですから、女性が活躍できる余地が盛大にあったのだと思います。
 
そこに、イギリス人の乙女が登場してきました。エレン・マッカサー(Ellen MacAther)です。エレンは男性と女性の間の壁を打ち破った上、常に何事でも競り合っていたイギリス対フランスという対立意識も崩したのです。エレンはフランス語を流暢に話すし、フランスのヨット造船所でヨットの仕上げに従事したりで、まるでイギリス人という枠から外れ、一ヨット乗りとして外洋に乗り出しています。

彼女の並外れたヨットの知識、航海能力、そして組織力は数々の金字塔を打ち立てました。ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)の『80日間世界一周』にちなみ、ヨットで80日以内で世界一周するのが大きな課題、目標になっていました。

エレンが単独で80日を割る世界一周に挑んだ時、すでにニュージーランドの英雄ヨットマン、ピーター・ブレイク(Sir Peter Blake)が複数のクルーとともに試みを成功させていました。その上、単独でも80日以下で回ったフランシス・ジョヨン(Francis Joyon)がいました。

エレンはフランシスの記録を1日と8時間35分縮める71日14時間18分33秒という大記録で一周したのです。その時、自分の記録を破られたフランシスも出迎え、エレンを祝福していました。

彼女の単独無寄港世界一周の記録は破られることはないだろうと言われていましたが、2年後、フランシスは57日13時間間34分6秒という信じられない短期間で記録を塗り替えたのです。今度はエレンがフランシス祝福に駆けつけています。

エレンが単なる記録猛者でないことは、現役の外洋レーサーだった時から数々のチャリティーに参加していることでも知れますが、スッパリとレーサーを辞め、エレン・マッカーサー基金を設立し、イギリスのワイト島カウズにある古いセールメーカーの工場、倉庫を借り受け、それまで捨てられていた古い衣服のリサイクルを開始したのです。

それらを被災地やアフリカ、アジアの貧困地区に送ったり、商品価値があるブランドものは、それらが売れそうな新興国へと、今のところ古着だけですが多面的な商品価値を生かしています。

一つの事業に成功を収め、それを切り放し、全く別の事業でも成功を収めるのは例外中の例外です。エレンはそれを成し遂げた稀有の例なのかも知れません。

もちろん、海、ヨットのことも忘れていません。ガン、白血病に罹った8歳から24歳までのヨットマン、ヨットウーマンを援助する基金も設けていますし、レインボウ 子供 ホスピスのチャリティーに他のスポーツ界のセレブを誘い込み、4ミリヨンポンド(約7億8,000万円)という大金を集めるの成功しています。

ヨットレース界からエレンのような人物が出たことは、とても心温まる思いがします。

 

追記:エレン・マッカサー(Ellen MacAther)は、自伝的な『Taking on the World』『Race against Time』『Full Circle』を書いています。今回のコラムは、大々的にそれらの本に頼りました。

 

 

第881回:Mansplaining…

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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