■拳銃稼業~西海岸修行編

中井クニヒコ
(なかい・くにひこ)


1966年大阪府生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊中部方面隊第三師団入隊、レインジャー隊員陸士長で'90年除隊、その後米国に渡る。在米12年、射撃・銃器インストラクター。米国法人(株)デザート・シューティング・ツアー代表取締役。


第1回:日本脱出……南無八幡大菩薩
第2回:夢を紡ぎ出すマシーン

第3回:ストリート・ファイトの一夜

更新日2002/03/18 


せっかく来たのだから市内観光でも、とバスで市内をウロウロしたが、車社会の米国でバスに乗る人はやはり低賃金の人々が多いと見えて、相変わらずお金やタバコをねだられながらの移動となる。

リュック1つなので身軽だったが、キャンプ用品や生活用品を揃えるのにも忙しかった。1週間も経つと、ロスの地理や買い物スポットなどは多少理解できる立派なロス小僧になっていた。治安の悪いストリートを歩くのには、自分も「いかれた野郎」の振りをして「同化」して歩けば、結構安全なこともわかってきた。

しかし、疲れのため、宿を取らずにロスのダウンタウンにある長距離バスの待合所で仮眠を取っていたある日。深夜になりうつらうつらしていた時、急にベルトが緩んだ感覚で目を覚ましたら、腹巻代わりのウエスト・ベルトがどうやって取れたのかなくなっていた。そして、それが待合所から足早に出で行こうとする男の手に、しっかり握られているのを見つけるのにそう時間はかからなかった。

「おいっ」と詰め寄っていけども、男は振り返らない。先に回り込んで顔をみると、中南米系のガッチリした男だ。
「それ、私のバック。返せ」
つたない英語で言うと、とぼけて首を横に振っている。

中に入っているのは5000ドルのTC(トラベラーズチェック)とパスポート。あきらめてしまう訳にはいかない。力ずくで取り戻そうとすると、いきなりウエスト・バックのベルトで顔を殴られた。ジーンという痛みと恐怖が走る。自衛隊時代に拳法をやっていたが、ストリート・ファイトのような実戦は初めてで、体は、強張った。

相手は、ウエスト・バッグを振り回しながら私を近付けまいとするが、チャンスを見つけて私もバックを掴み、引っぱり合いに持ち込んだ。男が、大きな声で「○×△!」と何やらスペイン語で叫んでいたので、気が付けば、いつの間にやら10人くらいのギャラリーが集まっている。

私は、このギャラリーの中の誰かがこの状況から助けてくれないかと、密かに期待をしていた。が、その期待は見事に外れた。更に、男の右ストレートが私の顔面を直撃する。

「やるしかない」と心に決めた。

その瞬間、バッグを引き寄せながら放った私の廻し蹴りが、彼のわき腹を捉えた。そして拳法の技の1つであるバック・スピンのブローがまともに当たった時、男はウエスト・バックをようやく離し、大量の鼻血を出しながらうずくまった。取り巻きのギャラリーからは、「オ~ッ! カラテ!」と大歓声。周りに誤解されないよう、「これは、私のバックです」とゼスチャーで説明して、私はその場を立ち去った。

すべては2、3分の出来事だ。心臓がドキドキして飛び出しそうであった。殴られた顔もジンジン痛む。辛勝であったが、これは喧嘩ではなく、自分の物を取り返しただけの正当な行為だと考えた。もう2度と夜のダウンタウンへは行かない。GUNで脅されたらひとたまりもないのだから。まさに、触らぬ神に祟りなしである。

 

 

第4回: さらば、ロサンジェルス! その1

 
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