のらりインタビュー



スリランカでの「悪魔祓い」のフィールドワーク、「癒し」という概念の提示、NHK「BSブックレビュー」の司会、刺戟的な著述や講演の数々・・・上田紀行さんの活躍は文化人類学者という枠だけでは、とてもとても収まりきりません!
明快でユーモアあふれる語り口、示唆に富んだその発言に触れると、いつも視界がスーッと晴れていくような気がします。
不景気とか閉塞感とか、なんとなく日本人みんながしゃがみ込んでしまいそうな空気が流れる今、人々がそして社会が輝きを取り戻すヒントはどこにあるのか?
上田さんのお話をうかがいに、秋の風が心地よい、東工大キャンパス内の研究室を訪ねました。

東京工業大学大学院 社会理工学研究科 助教授。1958年東京生まれ。東京大学大学院文化人類学専攻博士課程終了。愛媛大学助教授を経て、96年から現職。さまざまなメディアで社会問題に積極的に発言、またNHK「BSブックレビュー」の司会者としても活躍。主な著書に『覚醒のネットワーク』(カタツムリ社)、『スリランカの悪魔祓い』(徳間書店)、『癒しの時代をひらく』(法蔵館)などがある。
(以下敬称略)



のらり:こちらの研究室に移られたばかりとお聞きしたんですが。
上田 :そうなんです、散らかっててすみません。東向きなんで、午前中は日が当たってけっこう暑いんですよ。暑くないですか? あれ、僕だけかな?


『悪魔祓い』
講談社+α文庫
のらり:大丈夫です。先生は汗だくですねー(笑)。
上田 :自転車で大学まで通っていて、実は、さっき着いたばかりで・・・

のらり:着いて早々すみません(と言いつつ)、さっそくなんですが、長い景気の低迷や殺伐とした社会状況からくる閉塞感の中で、どうもみんなが元気をなくしてしまっている。そこで上田先生になにかヒントをいただけないかということなんですが・・・。
上田 :なるほど。えーとですねえ、僕は今の世の中の停滞感っていうのは、バブルの頃まで日本は経済が右肩上がりという状態が続いていたわけですけど、その中で徹底して効率というものを追求してきたツケが、人々の心に、そして社会の在りように出たってことだと思うんですね。
 効率を追求するため、社会システムや他の人からの期待感を満たすことに価値が置かれた。つまり自分なりの価値観や欲望を達成するために生きるのでなく、人生の座標軸は社会の側や他の人の期待感でできていた。そんなのつまらないでしょ、個人が輝かないのだから。それでもうまくいっていたのは、経済が右肩上がりだったからです。だからごまかしがきいた。みんなの言うとおりやって、ほめられる自分になっていれば、最終的に実入りもよくなっていい生活ができる、ということが確立していた。それならOKじゃないって感じだったと思いますね。



のらり:ところがここにきて、時代や人々を取り巻く環境は、大きく変わってしまった・・・
上田 :そう。それにもかかわらず、子供たちへの教育という点では、実らない成果のほうに向かって“個を殺せ”っていう教育がまだ継続している。“個を殺せ”って教育じゃあ魅力的で力強い人間にならないし、実力もつかないよ。

のらり:結局、親や学校で吸収したものと、現実とのギャップが開いていくんですね。だからよけい輝けない。
上田 :とくに輝けない人たちは、アダルトチルドレン的に他者の期待・欲望っていうのをすごく真剣に考えてしまったり、敏感に反応したりしている。期待に応えられないから他の人から愛されない、愛されていないのだから私は存在しないというふうにまで思いつめてしまう。
  たしかにひと昔前は、学校とか親からの期待に応え、それが社会的評価につながり、いい会社に入って年収もあがるという価値観が幅をきかせ、それを裏づける経済の右肩上がり状態があった。おかしな価値観だけど、そこに順応すれば、輝かないけどそれなりに暮らせるという時代だったのです。でも今はそうじゃない。人の幸せは学校とか会社とか年収じゃないってことがわかった。その点で僕たちは賢くなったんですよ。

のらり:方向転換できない人もいます。
上田 :他者からの評価で自分が生きるわけではない、ということを認識することです。自分の中にある他者の目をいかに吹っ切れるかということが重要だと思います。自分が自発的に何をしたいのか、これを養っていくことです。



のらり:自分の欲望を追求するってことでしょうか?
上田 :最初はわがままになるっていうことですね。ただ「ワガママ」と「我がまま」はちがう。「ワガママ」っていうのは、自分の欲望を何でも通すことですが、誰でも一度「ワガママ」になることが必要なんだけど、その「ワガママ」がやがて自分の中にストンと落ちて「我がまま」にならなくてはいけない。つまり「ワガママ」が「我がまま」に通じるってことですね。

のらり:なかなか難しそうですね。
上田 :これは非常に難しい!!(笑)。 だから最初は若干の「ワガママ」になって、「あの人、ワガママになったね」と言われるのは、やむをえないところもある。ただ、その最初の「ワガママ」っていうのはすごい反抗心とか、「敵討ちをしたい」「あいつに勝ちたい」っていう、今までの悔しさとか劣等感みたいなものに満ち満ちた「ワガママ」。これを「我がまま」の方に移行していって、そのときに、もう一回他の人とつながりあうっていう過程が絶対必要になると思います。

のらり:他の人っていうのは?
上田 :自分自身をしばっていた「他者の目」という「他者」ではなくて、今度は、私もこういうことをしたいし、他の人もこういうことをしたいという、お互いに夢を育んでいくような「他者」ですね。



のらり:「他者の目」っていうのは具体的には、どういうことでしょう?
上田 :たとえば公園デビューしなければいけないと思ってしまうママだね。公園デビューって、子供じゃなくて自分のデビューですよね。いかにその公園にいるお母さんたちの中で、自分が異物として排除されず、いいママとして存在するかっていうことを願っている。この公園デビューをしなきゃいけないという発想に、そのママの病理があらわれているわけですよ。
 よく言うじゃないですか? 「なんであなたは○○ちゃんのオモチャ取るの?」って。そう言いながら子供を叩く。叩くのは、他のママたちに排除されないためです。つまり、自分の子供が○○ちゃんのオモチャを取り泣かしちゃって、○○ちゃんのお母さんに私自身が嫌われたら、公園での私の地位はどうなるの? ってことばかり考えている。そんなママの子供は次のアダルトチルドレンになることは間違いないですね。
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