■よりみち~編集後記

 


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更新日2007/05/24


最近話題になっている映画は、作品よりもテレビ用のCMの方がうまいかもしれない。『スパイダーマン3』『バベル』の2本を一応観てきたのだが、どうも感動的な作品とはとても言えないものだった。所詮映画は娯楽なのだが、ショービジネスの香りが強すぎて、素直に映画の世界にのめりこめないのだ。映画的な技術はとんでもなく進歩しているし、もう映画で表現できないことなどないほど、CG技術や編集技術など、映画的な手法は完成されたものになってきたようには思えるのだが、すごい技術や編集が即感動を演出できるかと言うとそうでもないようだ。選りすぐりの最高の食材を使って、最高の超高級ワインと一緒にフレンチ料理のフルコースを食べたら誰でも感動するかというと、意外にそうでもなくて、ごくありふれた食材でも、野外のバーベキューで最高のシチュエーションで気の合う仲間たちと食べる方が、素材のおいしさに感動するのと同じように、記憶として染み込んでいく感動を演出するエッセンスや計算されたパワーが不可欠なのだと思える。『スパイダーマン3』は、シリーズものの宿命なのだが、第1作の感動にはどうやってもかなわないわけで、どんなにCG技術を駆使して、これでもかこれでもかというジェットコースタームビーになってしまっていた。所詮コミックのリメイクと言ってしまえば話は簡単なのだが、これが限界なのだろうと思える。でも、ビジネス的にはNo.4をつくるのだろうなきっと。問題は『BABEL』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品)である。これってホントに2006年のカンヌの監督賞でいいのだろうか? 確かに映画のつくりとしては斬新で、ハラハラさせる演出もうまい。テーマも重くて考えさせられる。映画全体としてはイケテル作品ではあると思うのだが、映画の命は「リアリズム」だと私は思っているので、ストーリーの穴にどうしても気が散ってしまって、感情移入できないのだ要は本気になれずにどこか醒めてしまうのだ。シナリオの基本であるストーリーづくりに失敗しているとしか思えない。あまりに話のつながりがおかしいのだ。ネタばらしになって恐縮だが、なぜモロッコに日本からわざわざライフル持ってハンティングに行くのだろう? 税関どうするんだろう? おまけにモロッコに自然保護区なんてないし、ハンティング旅行なんて聞いたこともない。そして、ハンティングが好きな自然派志向の日本のオヤジさんがなんで新宿の超高層マンションの最上階に住んでるのだろう? おまけにその奥さんがピストルで自殺しただなんて、オヤジはヤクザ関係とは思えないわけで、どうやって奥さんはピストルを入手したのだろう? モロッコ編のオヤジも奇妙としか言いようがない。なぜジャッカルを退治したいとはいえ、一度も銃を撃ったこともない自分の二人の息子にライフルを預けて撃ち殺せと言えるのか? オモチャじゃあるまいし、当地ではとても高価な弾を練習でバンバン撃たせるなんてありえない。モロッコの警察が、ライフルを持っているだけで問答無用でいきなり発砲して子供を撃ち殺すに至っては、これはいつの時代の話という感じだ。菊地凛子の演技も注目を浴びているが、クラブの男をノーパンで挑発したり、歯医者の顔なめたり、刑事に全裸で抱きついたりと、さかりのついた女子高生の演技が米映画批評会議賞新人女優賞とはどうなっているのだろう。これだけこじつけのシナリオが評価されたことにショックを覚える。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の伝えたいことは理解できるのだが、ビジネス的に日本を登場させたかったのなら、もっと日本の現実を取材してからにして欲しかった。はっきり言うと日本編に関しては違和感ばかりで、かえってない方がよほどテーマが浮き彫りになったように思える。そもそもが、なんで冷め切った夫婦がモロッコ旅行なのだろう? 救いは、ブラッド・ピットやケイト・ブランシェットなど演技派の役者の迫真の演技だ。ブラピは新しい領域を開拓したかもしれない。(

 

 

 


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