■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

更新日2003/07/17


約3年ぶりに赤坂ブリッツへ行った。お目当てはパティ・スミスの来日公演。ちなみに3年前はルー・リードの公演だった。立ち見は足腰がつらい、などという間もなく並々ならぬエネルギーに満ちたカッコイイステージだった。ステージでアレン・ギンズバーグの詩に曲をつけて歌うパフォーマンスの話を聞いていたので、「気難しい人かしらん」と思っていたがさにあらず。時折冗談をかましながら、終始リラックスしたムードだった。 「日本はすばらしい文化を持つ国なのだから、これ以上マクドナルドや スターバックスはいらない。それよりもゴジラバーガーや小津(小津安二郎ファンなんだそうだ)コーヒーなんてものを作ってアメリカに輸入してよ」みたいなことを言っていた。多分。こういうときに多分としかいえない自分が情けないが。歌舞伎の解説イヤホンのようなものをこういうときにも活用してもらえないだろうか。(志岐


ハリウッドを代表とするアメリカ映画に最近不満を感じている。「ツマラン」わけではないのだが…。ただ単にオジになったということかも知れないが、何度も頭の中で反芻しながら楽しめるような映画がやはり観たいと思うのだ。ネット検索していたら、岩波ホールでやっている作品に目が止まった。「イワナミ」である。なんと久し振りだろう。その昔、ドキュメンタリーや社会派と呼ばれる映画、フランスのアバンギャルド映画などもやっていて、何回か通ったことがあった。なつかしさも手伝って、ふらっと出かけてみた。神田神保町にある岩波ホールは驚くほど変わっていなかった。昔は結構大きなホールだと思っていたが、やけに狭く感じる。座席数も230でスクリーンもやたら小さく感じる。おまけにウィークデーということもあって、観客も20人ほどで、まさに20年前にタイムスリップした感じだ。お目当ての映画は『氷海の伝説』というイヌイット(カナダ・エスキモー)の映画で、レトロ感覚にピッタリだ。途中10分間の休憩がある3時間の作品というアナウンスがあり、つまんなかったらどうしようと思ったが、その心配は無用だった。いきなり雪と氷だけの神秘的な自然、極北の地で生きる昔のイヌイットの生活風景、インディアン?特有の呪術的な風習などが描かれ、ぐいぐいとイヌイットの世界に引き込まれてしまった。氷の家の中ではホントに裸で寝るということに驚かされた。アザラシ漁もユニークだ。氷に穴を開けて、アザラシが呼吸をするために顔を出すのをひたすら待つのだ。話している言葉のイヌイット語はアイヌ語にどこか似ている感じがするし、女性の顔の藍色の刺青もアイヌとつながる感じだ。顔はモンゴル系だからほとんど日本の田舎のオジサンやオバサンのようで違和感がない。観ているうちに、古代の狩猟民族だった頃の日本人の生活とダブってくる。雪と氷で固めた家に住み、男たちはアザラシやカリブーの狩猟、女は子供を育て、毛皮づくりが仕事だ。食べるために生き、生きるために食べる、これ以上シンプルな生活はない。だが、人間が群れで暮らす以上、そこには人間同士の諍い、妬み、欲望、陰謀など、宿命的な闘争が繰り返され、それに打ち勝てるのは愛しかないという普遍的なテーマが淡々と描かれていく。驚くのは登場人物の面構えが実によいのだ。特に主人公のアタナグユアト(その兄役もよかった)の笑顔を見ると、誰でも幸せになってしまうような魅力がある。無垢な目がホントに美しい。3時間がそれほど長く感じなかった。脚本から制作すべてがイヌイットというのもすごい。誇り高きイヌイットに脱帽である。また、カナダのヌナブト準州が、ほんの数年前(1999年)に誕生したことも初めて知った。イヌイット語で「我らの大地」という意味で、約2万人のイヌイットが自治権を持って暮らしているという。雪と氷のシーンがいまでも次々と思い出され、今年の夏の暑さを乗り切る役に立ちそうだ。(K