■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

 

 

 

 

 


更新日2006/10/12


新しい時代の日本映画が出始めている予感がする。特にどこが違うのか説明は難しいのだが、違いが最もはっきりしているのは創っている人の考え方が違うことだろう。かつての日本映画界の風習や気質などとは無縁で、映画が本当に好きでしょうがない新しい世代の映画人がやっと本格的な映画創りができる環境になってきたのかもしれない。9月23日から公開されている映画『フラガール』(李相日監督作品)は、まさに子供から老人まで文句なく楽しめる超娯楽大作に仕上がっていた。日本で誰でも知っている「常磐ハワイアンセンター」(今は「スパリゾートハワイアンズ」と呼ばれているようだ)が昭和40年に開業した際の誕生秘話の実録を映画化したものだが、いろんな意味で日本人のすごさを再認識させてくれ元気にしてくれる映画になっている。まず驚くのは、昭和40年の時代に福島県いわき市という東北の田舎町に「ハワイ」を創ろうとした日本人がいたということだ。その背景には石炭産業の衰退から石油エネルギーへの大転換期を迎え、炭鉱の閉山が相次ぎ、産業の転換が求められていた時代であったわけだが、そこで炭鉱で湧出していた温泉や炭鉱の労働力を活用したテーマパーク構想が持ち上がったというわけである。それが「常磐ハワイアンセンター」で、ユニークというのか無謀と言うのか、すべての運営を炭鉱人が行うというコンセプトなのである。炭鉱の町から一気にリゾートの町への大変身を炭鉱会社が取り組んだ最初の成功例かもしれない。同じ炭鉱の町から脱皮を図って大失敗した北海道の夕張市なども構想的には似ているのだが、この映画を観る限り、昔風に言えば根性の入り方が違っていたのだと思えるし、時代的には退路がない状態で成功させるしか道がないという真剣さの度合いが違っているのかもしれない。夕張の「石炭の歴史村」「夕張めろん城」に行った事があるが、炭鉱時代の夢の跡ばかりが目に付き、設備ばかりお金をかけていて、何の感動も与えてくれないのだから2度は行きたいとは思わないのだ。映画に話を戻すと、キャスティングが絶妙である。かなり大胆なキャスティングのように思えるが、登場人物が生き生きと描かれている。主人公の母親役の富司純子や炭鉱会社の部長役の岸部一徳などのベテランはもちろん、フラダンスの先生役の松雪泰子や、主人公の蒼井優など若手のフラダンスの演技も光っている。相当長期間の特訓を重ねたことは間違いないはずだ。南海キャンディーズの「しずちゃん」こと山崎静代もこの映画でデビューを果たしたのだが、思っていたより演技もはまっており、今後が期待される。全編に福島弁が使われていて、これもすごく自然な感じがしてよかったのだが、この方言の特訓も大変だったのではないだろうか。そして忘れてならないのが、音楽のジェイク・シマブクロ氏のウクレレとハワイアンがとてもぴったりと映画にマッチしていたことだ。最近、歳のせいか涙腺が弱くなっているのだが、この映画にはかなりやられることは間違いない。(

 

 

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