■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

 

 

 

 

 


更新日2004/10/14


カンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した是枝裕和監督作品『誰も知らない』が封切前から気になっていたのだが、やっと観ることができた。いかにも重そうなテーマで、体調を整えて状態で観ないといけないと思っていたが、想像していたよりも軽いタッチでまるでドキュメント作品を観るような感じで淡々とそして流れるように終わってしまった。こんな感じで終わっていいのかなと思うほど2時間30分の作品が物足りなく思えるほどだった。映画を観ているときには、その自然でなめらかなシーンの連続に、子供たちが置かれた異常な環境に対する悲壮感が不思議と起こらなかった。却ってそれを拒絶するような感じさえしたのだが、それも監督の計算であることがだんだん分かってきた。この作品は「巣鴨子供置き去り事件」という実際にあった事件を脚色して作られているのだが、観終わってからどうしても気になって、その事件の詳細をネットで調べていくうちに、監督の言いたかったことが少しづつ解けてくるような、まるでボクシングで言う“ボディーブロー”のようなずっしりと効いてくるような作品であることが分かった。“ある一線”を超えてしまった不幸、それが日常化した異常。この誰も知らないことが、いたるところで日常化している現実があることに気づく。カンヌ映画祭で最優秀男優賞を日本人としては初めて、史上最年少で受賞した“明”役の柳楽優弥君は、確かに光るものがあった。明だけでなく登場するすべての子供たちの自然の演技に驚かされた。その代表としての受賞だったことは確かだ。重い映画の後は超娯楽作品の『アイ,ロボット』(オリジナル:I, Robotアレックス・プロヤス監督作品)を観た。それほどロボット社会の未来に興味があるわけではないし、スティーヴン・スピルバーグ監督の『A.I.』 にがっかりさせられていたので、またCGだらけの映画だろうと思っていたからだ。たしかにCGなしでは制作できない映画ではあったが、そこそこ楽しめる娯楽作品に仕上がっていた。『A.I.』のような現代風ピノキオ物語と違ってファンタジーっぽいところがなく、やたら破壊シーンが多いアクション・スリラーだった。それに主演の刑事役のウィル・スミスが大のロボット嫌い(実は自分の左腕がサイボーグという皮肉な落ちあり)という設定が効いていた。今から30年後の近未来、西暦2034年という設定もなかなか親近感があった。ウィル・スミスが大切にしている靴がコンバース2004年モデルで、30年後のレトロブームというあり得そうな設定だ。私の場合どちらかというとストーリーよりも30年後の近未来の描き方の方に興味を覚えた。もちろんあまり好きではないCG映像のオンパレードだが、車の描き方や都市の描き方ではうまくそれをマッチさせていた。ロボットの動きに関しては、どれだけ時間をかけたのかと思うほど細かいところまで行き届いていた。エンディングのタイトルロールが通常よりもかなり長く、多くの人間がモデルとしてロボットCG制作のために参加していた。この映画のストーリーでは30年後には世界中の家庭に召使的なロボットが大普及しつつあるという設定だったが、ますます家庭や職場で人間のやることがなくなっていて、決して幸せそうではないなぁと思った。便利になると言うことは人間を駄目にしているのかも知れない。(

 

 

 

 


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