■よりみち~編集後記

 


■更新予定日:毎週木曜日

更新日2003/10/30


東京や横浜などで“タギング”という落書きが流行している。アルファベットを使ったタグに似ていることからタギングと言うらしいが、文字に意味がないらしい。いわば犬のマーキングに近い行為のようだ。昔から大都市には落書きがつきもので、一時期横浜の桜木町駅通りのガードにはアート化した落書きが流行したこともあり、カウンターカルチャーの一種と理解できないこともない。ほとんどがアメリカからの輸入のわけで、悪く言えばサルまねが多かった。80年代には、ニューヨークの地下鉄駅に描かれた奇妙なチョークの落書きが注目され、アーティストとして有名になったキース・へリングなどがいて、落書きが市民権を得た?時代もあった。しかし、最近の街に見られる落書きは明らかにデカダンスの匂いがする。90年代の頽廃して病んでいた頃のニューヨークに見られた落書きに近い感じがするだ。その当時の地下鉄に乗ったが、ひどい車両になると外も中も真っ黒のスプレーペイントで落書きされ、描かれていないのは、かろうじて座席だけというものもあった。落書きのない車両は皆無で、最初は見ただけですさんだ暗い気分になってしまったが、しばらくするとそれが当たり前になってしまった。人間はどんな環境にも慣れてしまうようだ。最近、ニューヨークの治安がすばらしくよくなっていて、一人歩きが危険だ言われていたハーレム地区までもが、観光スポットになっているそうだ。つい先日、この治安回復のために最初にやったことが落書きの徹底的な排除だと聞いてなるほどと思った。街中の落書きを徹底して消すことで、少しずつ治安がよくなっていったのだという。それほど落書きの心理的作用が大きいのだ。もちろん落書き愛好家グループがいるわけで、鬼ごっこのような状態が続いたはずだが、根気よく続けた結果、驚くほど治安のよい街に生まれ変わった。もちろん、アメリカの経済的な復興も要因としてあるだろうが、落書きによる街の風景の破壊が人々に与える心理的な影響は大きかったのだと思える。タギングのニュースを聞いて、東京が今ごろになって10年前のニューヨークに逆戻りしているようで、ちょっと怖いと思った。どうせサルまねをするのなら最先端のまねをして欲しいものだ。(K