■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]



第1回:いかにして西部劇狂になったか
第2回:ラストシーンで主人公が2人とも死ぬ西部劇
第3回:Butch Cassidy(ブッチ・キャサディ)
第4回:Butch Cassidy その2
第5回:Butch Cassidy その3
第6回:Butch Cassidy その4
第7回:Butch Cassidy その5
第8回:Butch Cassidy 少年時代
第9回:Butch Cassidy 法との係わり合い
第10回:Butch Cassidy 運命の出会い
第11回:Butch Cassidy 開拓時代の西部事情
第12回:Butch Cassidy 旅立ち
第13回:Butch Cassidy 泥棒砦
第14回:Butch Cassidy テリュライド
第15回:Butch Cassidy モンテローズ
第16回:Butch Cassidy_マットとの出会い
第17回:Butch Cassidy_マットとの出会い その2


■更新予定日:毎週木曜日

第18回:Butch Cassidy_空白時代の伝説

更新日2007/02/22


ハーリーの牧場を離れたブッチとマットは、もちろんお里帰りなどせずにトムの牧場に直行した。トムのコルテスの牧場から10キロと離れていないところ、いわばお隣の牧場に、時を同じくしてブッチと南米を渡り歩くことになるサンダンス・キッズ(本名、Harry Longabaugh)がいた。二人がどこでどう巡り会ったか記録はないが、サンダンス・キッズの姪が書いた本『My Uncle Sundance』によれば、その時コルテスで出合った可能性が大きいようだ。だが、一緒に強盗(シゴト)をする仲にはならなかったと思われる。

1887年11月3日の朝早く、デンバー&リオグランデ鉄道の列車がグランドジャンクションの東5マイルの地点で襲われた。線路に石を積み上げ、列車を停車させ、客車に連結されている現金輸送車輌の金庫を頂こうという筋書きだった。

現金輸送車はエキスプレス(Expressと呼び,急行列車の意味ではない、 American Expressも現金を速やかに移送できるという命名だろう)と呼び、エキスプレス車には乗客係とは別の、クラーク(事務員)が乗っているが普通だった。このエキスプレス車のクラークは機転が利くうえガッツのある人物だった。ピストルを胸に突きつけられながらも、金庫を開ける合わせ番号は向こうの駅の係員しか知らないと突っぱねたのだ。

列車強盗団はたった150ドルの現金と何通かの書留郵便を持ち去っただけだった。このドジな列車強盗がブッチ、マット、トムの3人組だったというのだ。西部開拓時代のエキスパート歴史家、チャールス・ケリー(Charles Kelley)などはこの3人組がやったと確信している。


グランドジャンクションの駅。
意訳すれば"大きな交差点"ということだが、
東西に走る線路となん南北線が交わる鉄道の拠点だった。
今は一日に2本の列車、東行きと西行きが止まるだけだ。

だが、翌日、11月4日のロッキー・マウンテン・ニューズ(デンバー発行の新聞)ですでに犯人グループ4人(Jack Smith, Bob Smith, Ed Rhodes, Bob Boyd) がグランドジャンクションで逮捕されたと報じているのだ。チャールス・ケリーによれば誤認逮捕ということになるのだろうが、いくら当時の新聞が信用ならないにしろ、名前まで挙げ、その後実刑までくらっている。

同一犯人による犯行には常に一定の手口があり、一種の指紋のような足跡を残すものだそうだ。後にブッチ方式が真似され大いに流行ったが、事前にあらゆる情報を掴んだうえで周到な準備をし、逃走ルートをあらかじめ確保するブッチ方式と、このずさんな泥棒のやり方は余りに違いすぎる。

逮捕された間抜けな4人組ではなく、他の誰かがやったにしろ、このずさんな列車強盗はブッチ、マット、トムの3人組のシゴトではないだろう。あまりにもブッチ方式とはかけ離れすぎているように思える。鉄道沿いにある電信線を破壊すらしていないのだ。

もう一件、痛快な事件が起こった。1889年3月30日の土曜日にデンバーにある、ファーストナショナル銀行の頭取、デイヴィッド・モッファット(David Moffat)のもとにキリッとした身なりのビジネスマンが訪れた。この地で新たにビジネスを展開したい、ついてはお宅の銀行にメインバンクになってもらい大掛かりな金融オペレーションの基点になって頂きたいと言うのだ。

モファットはタダの銀行屋ではなく、企業家、ベンチャー投資家でもあり、デンバーの開発になくてはならない、巨大な存在だった。公共事業にも私財を投じている、いわば土地の大物だった。ロッキー山脈を東西に貫く鉱山鉄道トンネルはモッファトが財政援助したもので、彼の名をとり“モッファト・トンネル”と呼ばれている。

かのビジネスマンは頭取の接待室に案内されるや否や、ピストルを抜き、「私はあなたの銀行を襲いに来た」と告げ、そして懐からビンを取り出したのだ。ビンには透明の液体が入っており、「これはニトログリセリンだ、ちょっとした衝撃でもこの銀行ビル全体を壊滅させるに余りある量だ」と付け加えたのだ。

モファットは冷静に2万1,000ドルの小切手を書き、銀行員を呼び入れその小切手を現金化するように申し付けたのだ。不穏を感じ取った銀行員が現金の中に銀行間取引でしか使用しない1万ドル紙幣を混ぜて手渡したのは賢明な処置だった。強盗は銀行の玄関口に立っていた二人の見張り要員と共に街中に消えたのだ。

これが事件のあらましだが、奇妙なことにマットの自伝にはこのことは書かれていないし、トムのメモワー『McCarty Owen Story』(そうなのです、この強盗グループはよくモノを書くのです)では、彼はモッファトに会っていないとあるのだ。マットが亡くなってから彼の娘ジョイスはマットとブッチがこの事件のことを思い出話として語っているのを耳にしてるので、彼らがやったのは間違いないと述べ、加えて、ブッチが演出、主演を一手に引き受けて打った芝居だとしている。

その同じ年の秋にワイオミング州のスターバリーにあるアフトンの村はずれに、マットとトムはMatt Willard、Tom Smithの名で牧地つきのログキャビンを購入し、アフトンの雑貨屋の在庫をすべて買い上げるような冬場の貯蔵ショッピングをしている。加えてアフトンの村の酒蔵がそのままトムとマットのキャビンに移ったと言われるほどウイスキーを買い込み、誰でも彼らのキャビンに立ち寄って2、3杯やるのがその冬の習慣になり、おかげで村の酒場はあがったりになった。二人がその冬の前に大量の現金を持っていたことは確かなのだ。

後年、1万ドル紙幣がキャビン購入の時に使われたことが分かり、受け取ったアフトンの住人が取調べを受けている。

一方、ファーストナショナル銀行の頭取・モファットは、この事件について何も語っていないし、警察の記録もなく、デンバーの新聞にも載っていない。犯人が置いていったであろうニトログリセリンらしき液体が入ったビンの処理は警察か消防署に依頼したと考えるのが自然だし、それならば何が起こったか調書を取るのが成り行きだが、そのような調書も見つかっていない。言ってみればこの事件は被害者側から見れば起こらなかったことになる。モファットが自分の銀行の信用維持のため緘口令を敷いた可能性は残るが、犯人サイドが収穫を享受し、被害者側が沈黙した不思議な事件である。

-つづく

 

 

第19回:Butch Cassidy_テリュライド、サンミゲル銀行


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