■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]



第1回:いかにして西部劇狂になったか
第2回:ラストシーンで主人公が2人とも死ぬ西部劇
第3回:Butch Cassidy(ブッチ・キャサディ)
第4回:Butch Cassidy その2
第5回:Butch Cassidy その3
第6回:Butch Cassidy その4
第7回:Butch Cassidy その5
第8回:Butch Cassidy 少年時代
第9回:Butch Cassidy 法との係わり合い
第10回:Butch Cassidy 運命の出会い
第11回:Butch Cassidy 開拓時代の西部事情
第12回:Butch Cassidy 旅立ち
第13回:Butch Cassidy 泥棒砦
第14回:Butch Cassidy テリュライド
第15回:Butch Cassidy モンテローズ
第16回:Butch Cassidy_マットとの出会い
第17回:Butch Cassidy_マットとの出会い その2
第18回:Butch Cassidy_空白時代の伝説
第19回:Butch Cassidy_テリュライド、サンミゲル銀行


■更新予定日:毎週木曜日

第20回:Butch Cassidy_テリュライド、サンミゲル銀行 その2

更新日2007/03/08


6月22日、土曜日、テリュライドに乗り込んだ3人組はサンミゲル銀行がよく見える、コロラド通りをはさんだ向かい側にあるサロンバーに陣取って、シゴト前の最後の詳細を検討でもしていたのだろう、そこに長居していたのを目撃されている。土日の水商売のかき入れ預金を見越して、決行は週末明けの月曜日24日に決めた。

このテリュライド、サンミゲル銀行襲撃はマット、トムの自伝だけでなく、銀行員や目撃者の証言も多く、デンバーの新聞でも大々的に報道され、西部史の研究家たちの論文?著作もたくさん出ているので具体的な史実関係が割にはっきりしている事件だ。が、それにしてもそれぞれ微妙に食い違うところも多い。

この歴史的強盗、ブッチの公式的銀行強盗デビューは次のように行われた。銀行のクラーク、チャールス(Charles Pointer)は月曜日の午前中に集中する預金者を受け付けた後、行内にキャッシャーのハイデ(Hyde)だけを残し昼食を摂りに銀行を離れた。向かいのサロンバーで銀行の出入りを見張っていた強盗団はその時を待っていた。


テリュライドのメインストリート、コロラド通り。
1890年頃のものだと思われる。
左側の尖った三角屋根の建物がブッチたちが襲った
サンミゲルヴァリー銀行。


現在のテリュライドのメインストリート。

マットとブッチが銀行に乗り込み、トムが銀行の外で逃走用の馬を曳き待機する手はずだ。もう一人謎の第四の男がサロンバーで見張りに立っていたという証言もあるが、これは後で推敲する。

マットが銀行内に入り、ブッチは出入り口を固めた。マットはキャッシャーのハイデにピストルを突きつけ、ありったけの金を出すように脅したが、ハイデの方は初め何かの冗談だと思い笑い返したのだ。マットはハイデの髪を掴みテーブルに押し付け、後頭部にピストルをあて、これはマジメな強盗であり、ホンキであることを示威しなければならなかった。

それから玄関を固めていたブッチを呼び入れたのだ。ブッチはカウンターを飛び越え、まだ金庫に入れずにテーブルの上にそのまま積み上げてあった現金を持ってきた袋に詰め込んだ。したがって金庫破るようなことはしていない。その間マットは哀れなハイデを床に押しつけるように抑えていたが、縛り上げるようなことはしなかった。

二人が銀行に入ってから出るまで3分とかかっていなかったろう、マットとブッチはトムが曳いてきた馬に飛び乗ると、まるで行楽を楽しむようにトロットでそこを離れたとハイデが証言している。

ハイデがよろけるように銀行の出入り口に立った時に、3人組の誰かがハイデの足元へ威嚇射撃をしている。強盗団は最初の3、4ブロックをゆるやかにトロットで進み、そこから緊張を一挙に解き放つように"イーハー"とでも叫んだのだろうか、西部劇風に嬌声を上げ、ピストルを空に向け乱射しなから全速で馬を飛ばしサンミゲル川沿いに逃走したのだった。まだ少年だった目撃者のエドワード(Edward Weller)はその様子が忘れられず、詳しく語っている。

犯人確定に目撃者の証言が唯一有罪の決め手であった時代のことだ、顔が割れないことが絶対必須の決定的条件だった。にもかかわらず強盗団は犯行時も逃走時も、だれもバンダナで顔を隠すようなことをしていないのは考えてみれば奇妙なことだ。

マットによれば、銀行からバンダナで顔を隠した男が舞い出てきて、おまけに外にも顔を隠した男が馬を引き連れて待っていたとなると、強盗の看板を首から下げているようなものだということになるのだが。確かにマットの理屈に一理はある。またテリュライドで彼らは知れ渡った顔でもなかったし、素早くユタ州へ抜け、ワイオミング州へ北上すればよいとでも考えていたのだろう、素顔を白日下に曝しながら犯行し、逃走したのだ。

後にマットが、「小さな偶然が人生のすべてを変えてしまうことがある」と述べ、続けて、「この偶然の出会は、自分たちのアウトロー人生で、渡った橋を焼き落とすように、もう引き返すことが不可能になり、アウトローとして生涯を送るほかに生きる道がなくなったターニングポイントだった」と遭遇の大きさを強調している。一方、トムは「あいつらを撃ち殺してしまうべきだった」と、彼らしい激しさで回述した事件が逃走路で起こった。

ブッチとマットが1シーズン、ハーリー(Harry Adsit)の牧場で働いたことは書いたが(No.17_マットとの出会い その2)、そのハーリーと彼の連れがテリュライドに向かっているとき、馬を飛ばしてきたブッチたちに出くわしたのだ。テリュライドの町からほんの2マイルの地点、サンミゲルでのことだ。

ハーリーはブッチたちが挨拶を交わす暇を惜しんで、そんなに急いでどこに行くのか訝しく思ったと語っている。バンダナで顔を隠していれば、ハーリーに知れることなくすれ違い、何百マイル、何年にも及ぶ追跡劇の辛苦を舐めずに済んだのにとマットは悔いている。ハーリーの証言が犯人確定に決定的な役割を果たしたのは言うまでもない。早々と顔が割れたのだ。

犯行宣言を派手派手しくするようになったのは、時代も下ってマルキストやアラブ人がテロを展開してからのことだ。当時の銀行強盗、列車強盗では犯人が確定できない事件が数多くあった。

トムの自伝では、トムはハーリーに、「お前とお前の家族が無事でいたかったら、お前の口をしっかりと閉じておけ」とすれ違いざまに脅しをかけたとあるが、ハーリーの方はそんな事実はなかったと否定し、ブッチたちとの路上の出会いを証言した。


リザードヘッド(トカゲの頭)峠を越え、リザードヘッド山を
右手に見ながら迂回するようにブッチらは西に向かった。
踏みつけ道のようなハイカー用の登山道がついている。

ブッチたちは、最初のリレーをサウスフォーク川がサンミゲル川に合流するキーストンで行い、そこから左に折れ、サウスフォーク川沿いの谷を南下していった。リザードヘッド峠を越えると、ドローレス川沿いの下り道になる。このルートは現在国有林になっており、西にそびえるウイルソンの山々と東のサンファン連山との間を縫うように走り、手付かずの自然がアメリカ的スケールで残っている山岳地帯だ。

深い山間の村エーメス(Ames)からは、現在ハイウェイ145が走っているが、それとほぼ同じ道を南下して行った。この逃走路や、どこそこでキャンプしたというような学術論文?や地元の郷土史家の記事がゴマンとあり、そのうちにブッチが腰掛けてビーフジャーキーを食べた岩まで探し出しかねない雰囲気だ。


ウィルソンマウンテン、ウィルソンピーク、エル・デイエンテ山(牙山)と
三つの険しい4,200-4,300メートル級の山々が折り重なっている。
現在、林道555号がウィルソンマウンテンの南側麓に走っているが、恐らくこのルート沿いにユタ州へ抜けたものと思われる。

彼らはそのまま南下してトムのコルテスにある牧場には向かわず、クールクリーク(Cool Creek)沿いにもう一度急峻な山林に分け入り、ドローレス川から離れている。結果的にこのルートの選択はビンゴと叫んでよいような大当たりだった。というのは、ドローレス川の流域にあるリコの村、さらに下ったドローレスの町にはすでに追手が回っていたのだ。

途中一泊、彼らは標高3,000メートル山中の寒空の下、追跡者の目印になるような煙を出さないため、また焚き火の跡を残さないため、火のないキャンプをしている。そして予定通り、ユタ州に抜けモンテチェロ郊外にあるアウトロー・シンパのカールスリー牧場に逃げ込んだのだった。

-つづく

 

 

第21回:Butch Cassidy_代理保安官たちの追跡


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