第81回:アウトローからの更生への道 その2
更新日2008/05/29
ブッチはここで話すことはすべて秘密にし、外に漏らさないと約束してもらえるかとパウワー判事に確認した上で、私はブッチ・キャサディーだ…と語り始めた。
ブッチとの会見は、判事に余程強い印象を残したのだろう、長い会話文で書き残している。
以下意訳、抄訳する。
「私に掛けられている罪状が山のようにあるのは知っているし、大量の懸賞金が私の首に掛かっているのも承知の上だ。私の現状を正直に言えば、常に追われ、逃げ、隠れ、一箇所に棲むことができない生活に疲れ果ててしまった。遅かれ早かれ、私も捕まるか殺される運命にある。私に掛けられた罪状はたくさんあるにしろ、特定の事件で私が犯人であると証言できる人間はいないはずだ。証言可能な私の仲間たちはすでに殺されたり、遠くへ去ってしまっている。それに私は未だかって人を殺めたことはない。確かに私は強盗を働いたが、不当な利益を長年に渡り得ていた銀行や鉱山、鉄道会社だけを襲い、個人からモノを取ったことはない。私の古い罪状を破棄し、更生する方法はないものだろうか」。
それに応えパウワー判事は、「無駄なことだ。あなたは(パウアー判事はブッチをミスター付きで、Mr. Cassidyと呼んでいる)すでに大きな企業から何度も窃盗を働いている。たとえ今まで犯した罪に無罪を勝ち取るために法廷を開いたにしろ、それらの大会社はなんとしてでもあなたに罪を着せようとするだろう。証人などは大会社は何人でも作り出すことだろう。そうなると、資金、情報、すべての面で、はるかに大きな力を持つ企業に太刀打ちできる方法はない。あなたに最も重い罪を着せることになるだろう。あなたに許されたことは、ただ逃亡生活を続けることだけだ」と、法廷の現実を説いている。
ブッチは、「あなたから、州知事に恩赦を持ちかけることはできないだろうか?私はユタ州ではキャッスル・ゲートの鉱山強盗以外の罪は犯していないし、その時も誰にも怪我をさせていない。証拠は何も残していないはずだ。あなたなら調停できるのではないだろうか?」と、さらに嘆願した。
これに対しても、パウワー判事は法的立場から、「州知事には判決が下った罪人に対して恩赦を与える権利はあるが、裁判の席に着いていないどころか、まだ逮捕もされていない容疑者に恩赦を与える権限を持っていない。万が一、ユタ州だけで無罪になったとしても、他の州、ワイオミング、コロラド、アリゾナ、ニューメメキシコが引渡しを要求してくるのは目に見えている。おまけにどこの州政庁も、大資本、鉄道会社、銀行の大きな経済的影響力の下にある。あなたにこの西部に安住の地はないだろう。あなたはもうすでにアウトローの道に深くはまり込んでしまっている。どこか全くあなたのことが知られて居ない新しい土地に行くより他ないだろう」と、諭しているのだ。
パウワーは一判事がお尋ね者に対処し、処断するところがなく、法律顧問が大切な顧客に対応しているかのようだ。この記録は、パウワー自身が書き残したものとはいえ、彼がブッチの率直さ、現実を見る目の確かさに強い感銘を受けたことが、言葉の端々ににじみ出ている。
事実、その後パウワー判事は、ブッチを救済するために奔走した。
1890年から1899年にかけて、列車強盗だけで261件起こっており、88人が殺され、86人の怪我人を出しているのだ。パウワーの言うとおり、鉄道会社、取り分け被害の多いユニオン・パシフィック鉄道が、犯人追跡を簡単にあきらめるはずもなかった。
ブッチはパウワー判事との会見で、厳しい現実を突きつけられ、更生への道が不可能に近いことを知らされただけだった。ブッチは丁寧にお礼を言い、パウワー判事の事務所を去った。
だが、ブッチはすべてをあきらめたわけではなかった。最後に、ユタ州知事ウエルス(Heber Wells)に直接会うという賭けに出たのだ。
…-つづく
第82回:アウトローからの更生への道 その3

