■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]




第1回〜第50回までのバックナンバー

第51回:Butch Cassidy_キャスル・ゲイト その2
第52回:一つの鮮やかな成功は常にモノマネザルを呼ぶ
第53回:ミーカー銀行強盗の怪
第54回:マッカテ ィー一族 その1
第55回:マッカティー一族 その2
第56回:マッカティー一族 その3
第57回:マッカティー一族 その4
第58回:ブッチのエピソード その1
第59回:ブッチのエピソード その2
第60回:The Sundance Kid (サンダンス・キッズ) その1
第61回:サンダンス・キッズ_その
第62回:サンダンス・キッズ_その3
第63回:サンダンス・キッズ_その4
第64回:サンダンス・キッズの初仕事
第65回:ベレフォーシュ銀行強盗
第66回:アウトローと愛国心
第67回:ジョー・ウォーカー その1
第68回:ジョー・ウォーカー その2
第69回:自分の葬式に参列した男
第70回:ジム・ローウズという男
第71回:ジム・ローウズという男 その2
第72回:ウィルコック列車強盗事件

第73回:ウィルコック列車強盗事件 その2
第74回:ウィルコック列車強盗事件 その3
第75回:アラン・ピンカートン登場
第76回:ピンカートン探偵社
第77回:ピンカートンの切り札
〜チャールス・シリンゴ

第78回:静かなる男_エルジー・レイ
第79回:フォルサム列車強盗始末
第80回:アウトローからの更生への道
第81回:アウトローからの更生への道 その2
第82回:アウトローからの更生への道 その3
第83回:アウトローからの更生への道 その4
第84回:史実と贋作


■更新予定日:毎週木曜日

第85回:ティプトン列車強盗

更新日2008/06/26


ブッチが初めてパワー判事の事務所を訪れ、自分の更生の道を探り出してからすでに6ヶ月が経過していた。この間、ブッチが真剣に更生しようと画策したのは間違いないが、同時に更生ははじめからできない相談だったのではないか、他に生きる道はないのだろうかと模索したことだろう。

もちろんブッチは、旧友のマットが州知事とユニオン・パシフィックのメッセージを携え、彼の元へ向かっていることを知らなかった。

ブッチがいつ南米へ移住する決意をしたかわからないが、恐らくロースト・ソルジャーでの面会が失敗に終ってから、南米移住を具体的に検討し始めたと思われる。ロースト・ソルジャー峠にダグ・プレストンとユニオン・パシフィックの連中が来なかったことを、ブッチは彼らの裏切りと取り、ユニオン・パシフィックへの復讐的な意味合を込めて、ティプトン列車強盗に及んだと見ている。


ティプトンで爆破された現金輸送列車。
金庫は30センチの厚さはあろうかと思われる当時最強のものだった。
ブッチたちは金庫を壊すために3度ダイナマイトを仕掛けている。

というのはブッチは同じ手口を使うことを嫌い、毎回新たな手段で、全く意表をついた地域で犯行を行っていた。だが、このティプトンはロウリングの西たった50マイルのロッキー山脈大分水嶺近くにあり、成功に終ったウイルコックス列車強盗の地点から馬で1日の距離、弁護士ダグ・プレストンが事務所を構えるロックスプリングまで半日の40マイルしか離れていない。

おまけに犯行現場のティプトンは、ウイルコックスと同じ軌道のオマハからソルト・レイク・シティーに抜ける路線上にある。いわばダグ・プレストンのお膝元で、ウイルコックス列車強盗以来、ユニオン・パシフィック鉄道が神経を尖らせ厳重な警備体制を敷いていた区間で犯行を行ったうえ、しかもウイルコックスと全く同じ手口で、鮮やかに成功させたのだ。

"ザマー見ろ、俺がやろうと思えばこんな場所でこんな風にできるんだぞ"と言うブッチの声が聞こえてきそうな犯行なのだ。

ユタ州知事ウエルスがティプトンと呼び習わしたせいで、ティプトン列車強盗として名が通ってしまったが、地点だけから言えばむしろテーブルロック(地元ではプルピットロックと呼ばれている)に近い。

事件は1900年8月29日の夕暮れ8時に起こった。バンダナで顔を隠した一人が機関車に入り込み、大型のコルト45を機関士のヘンリー・ワレシュタイン(Henry Waller)のアバラ骨に喰い込ませ、前方にかがり火を見たら列車を止めるよう要求した。1マイルほど行ったところにかがり火を見つけ停車したところ強盗団の仲間3人が乗り込んできた。それからはお決まりの、客車と現金輸送車を切り離し、さらに1マイル機関車と現金輸送車だけを進め、そこで現金輸送車そして金庫をダイナマイトで爆破し、内容物を掻っさらう手口で進められた。

現金輸送車に乗り組んでいた警備事務官がなんとウイルコックス事件のときと同じ、ウッドコック(C. E. Woodcock)だった。この偶然のため、ウッドコックに共犯の疑いがかけられたりした。

ティプトン列車強盗の模様は9月2日付けの新聞、The Denver Republicanと Carlsonの"Tipton Robbery"に詳しい。

不思議なことに被害者、当事者である現金輸送車のウッドコック、車掌エド(Ed Kerrigan)や機関士のヘンリーたちが強盗団に対し、悪い感情を持っていないように語っているのだ。むしろ好意的な逸話を語っていさえするのだ。たとえば、機関車と客車を切り離すとき、スロープがきついので客車は暴走してしまう、だから全客車のブレーキをかけ終わるまで(各車両に鉄のバーを踏み込んでブレーキをかける、車のサイドブレーキのようなものが付いている)待って欲しいと車掌のエドが頼んだところ、あっさりと、「無駄に人の命を奪うようなことはしたくない。速やかにブレーキをかけろ」と強盗団の首領格が言い、ダイナマイトで現金輸送車のドアを吹き飛ばすときも、中にいるウッドコックに声をかけ注意を促している。 

4人組が立ち去る前に首領格が車掌のエドに時間を訊いた。車掌は職務上精確な懐中時計を持っている。エドが持っていたのは金時計で金の鎖がついた高価なものだった。エドは時間を告げた後、あきらめたように金時計を差し出したところ、首領格が「俺たちは、鉄道で働いている人間からモノを盗るようなことはしない」と答えている。

一種のストックホルム現象(誘拐された人が誘拐した犯人をかばうような言動をする心理)と言えなくもないが、人を傷つけることなく、隙のない鮮やかな統制で見事にしてやられたという多少の賞賛の感情が残ったと思われる。

実際、ティプトンの列車強盗は訓練を積んだ職人グループが個々の役割を着実に果たしてボヤを消し止めた消防団のように機能している。4人組は金庫を空にし暗闇の中に消え去ったのだ。

列車は2時間遅れてグリーン・リヴァーに着き警鐘を発した。

-つづく

 

 

第86回:ティプトン列車強盗 その2


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