■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]


第1回:いかにして西部劇狂になったか
第2回:ラストシーンで主人公が2人とも死ぬ西部劇
第3回:Butch Cassidy(ブッチ・キャサディ)
第4回:Butch Cassidy その2
第5回:Butch Cassidy その3
第6回:Butch Cassidy その4
第7回:Butch Cassidy その5
第8回:Butch Cassidy 少年時代

■更新予定日:毎週木曜日

第9回:Butch Cassidy 法との係わり合い

更新日2006/12/07


ブッチが後年、銀行や列車強盗を組織的に展開し、その親玉格にのし上がり、アウトロー、ワイルドバンチの代名詞のような存在になる発芽を13歳から家を出た18歳までの間に見つけようとする歴史家、心理学者、アウトロー専門家、伝記作家は非常に多い。

悪党だけではないが、将来歴史に名を残すような人物は、少年期に必ずその兆候がなければならないと信じ込み、なんとしてでも原因理由をこじつけようとしているかのようだ。幼稚で安手なフロイド的解釈で説明をつけようとしている伝記作家が多いのにはあきれるばかりだ。

滑稽なものには、ブッチが生まれた星まわり(星座占いによる)がとんでもなく悪かったとか、ブッチの生年月日1866年4月13日は金曜日だったと小論文に書いたものさえある。

ブッチに関して"本"のカタチで出版されているものは170点以上あり、加えて、雑誌に発表された記事、学会での論文、土地の好き者の歴史家が新聞に書いたモノなどをを合わせると天文学的数字になるだろう。だがブッチの少年期、13歳から18歳までの公式記録は1880年の国勢調査に、「パーカー一家の長男、Robert Leroy Parker14歳」とあるだけで、法を犯し警察に捕まった記録はない。だが、少年ブッチが法に関わった事件が何回か起きている。


1883年とあるからブッチ17歳のもの? と言われているが
確証はない。当時のカウボーイの雰囲気がよくにじみ
出ている写真である。(Gibbons Collection)

13歳でライアン牧場に働きに出ているとき、馬で一日の道のりにある村の雑貨屋へオーバーロール(作業服)を買いに行った。(*1)あいにく雑貨屋は閉まっており、ブッチは、支払いは今度村に来たときにする旨書置きしてオーバーロールを持ち帰った。当時の開拓部落では部落民は互いに皆知り合いだったし、いったん口にした言葉は信用され、約束は必ず守るのが当たり前で、契約書をいちいち交わすしきたりはなかったし、モルモンの開拓部落に定着している農夫が付けでモノを買うのは一般的なことだった。

ブッチはそのために仕事先から休みを貰い、買い物に出てきたのだ。もう一日かけて村に出直してくる必要を認めなかったのだろう。それに店主はブッチの家族も、雇い主のライアンとも知り合いなのだから、後で払えば済むことだと思ったに違いない。

ところが、店主(*2)は群(Beaver County)のシェリフ(保安官)に訴え、13歳のブッチは突然現れたシェリフにしょっぴかれ,拘束されたのだ。この事件は雇い主のライアンが保証人になり、ブッチもすぐにオーバーロールの代金を支払い、釈放となって落着した。

店主を非難する声の方が高かったが、ブッチは犯罪人としてシェリフから酷い扱いを受け、司法者への不信がそのときに生まれたとする研究者が多い。だがこの事件の公式記録も残っていない。

もう一つの事件は、30年間ジュアブ群(Juab County)のシェリフを勤めたパーレイ(Parley P. Christensen)が思い出話として語っている、馬のサドル盗難事件である。鞍はメーカーにとってばらつきはあるにしろ、今でもとても高価なもので、装飾のない実用一点張りでも良いものは3,000ドルはする。特注になると軽く1万ドルを超える。また、サドルはカウボーイたちの命だから馬の脂を塗り大切に扱う。

あるとき、隣の群、ガーフィールド(Garfield County)のシェリフがブッチをサドル窃盗で逮捕したのだ。結局、誤認逮捕だったが、このときにブッチは窃盗犯としてかなり手ひどい仕打ちを受けた。この事件の公式記録も存在しないがブッチが14歳から17歳のときに起こったと思われる。妹ルラは、逮捕事件があったときブッチはすでに牧童として働いていたパット・ライアンから古いサドルを貰い受け所有していたので、ブッチがサドルを盗む理由はなかったと憤慨している。

もう一つの事件は、1883年に起こった。ブッチ個人ではなくパーカー一家に関したことだが、父親マックスがサークルヴィルの農地をジェームス一家から購入したとき、いわば付帯条件のように数年後に160エーカーを買い足す口約束をしていた。マックスはそのために季節労務者となり、付け足し分160エーカー購入に必要なお金を貯金し、いざ土地を購入しようとしたとき、ジェームス一家が売ることを拒んだのだ。灌漑用水路をブッチ一家の労働で引いたにしろ、土地に付加価値が付いたので同じ条件では売れないというわけだ。

開拓民が入り込んだばかりのサークルヴィルのある、ピウット群には裁判官がおらず、開拓部落の習慣で教会の長老格が判決を下すことになった。教会とはもちろんモルモン教である。判決でジェームス一家が勝ち、ブッチ一家は先に購入した160エーカーだけの権利のみを持ち、追加分の購入は認められなかった。

この判決はブッチ一家、とりわけ父親のマックスに深い影を落とした。マックスは出稼ぎのため土地に居ないことが多く、日曜ごとに教会に通う熱心なモルモン教徒ではなかった。その上、モルモン教で禁じられているタバコを人前で吸っていた。喫煙は飲酒同様大変な悪徳とみなされていたのだ。

加えて彼が出稼ぎに行っているところは同じユタ州でも流れ者の労務者が多く集まり、娼婦のたむろする館があり、ギャンブルが公然と行われ、悪徳の町のようにモルモン教徒に思われているところだった。(*3) 

彼が稼いできたお金は得体の知れない汚いお金と思われていたのだろう。マックスは以後ますます教会から離れていくようになる。

しかし、他の同類の判例、モルモンの裁定を見ると、教会の長老が下した判決はいたって公平なものだったと言ってよい。モルモン教では家族が食べていくことができる以上モノを持つことを善しとせず、野心とみなしていたし、またサークルヴィル界隈、セイバー川沿いの部落は160エーカー以下で自作農として暮らしている農家がいくらでもあった。だが、マックスはそうは取らなかった。


サークルヴィルにある"ブッチの隠れ家"カフェレストラン。
ブッチに敬意を表して昼飯を摂った。
中西部のどこの田舎町にもあるようなカフェーで、
赤と白のチェックのテーブルクロスはもちろんビニール製。
メニューはハンバーガーにフレンチフライのみ。

もう一件付け加えると、モルモン地下逃亡経路がセイバー川沿いにあり、サークルビルがその拠点のひとつだったところから、ブッチ一家が官憲に追われたモルモン教徒をメキシコへ亡命させるための一つの拠点になっていた可能性があるというのだ。

モルモン教徒は一夫多妻を認めていたが、1882年に合衆国政府が一夫多妻を禁止した。合衆国側にモルモン教徒だけに牛耳られるユタの政治を崩そうという狙いがあったにしろ、西部では男性と女性の人口比率が極端にアンバランスで女性が少なく(金鉱騒ぎに沸いたサクラメントでは男10人に女1人の状態だった。それほど酷くはないにしろ、開拓部落、牧場でも4対1ほどだった)。

モルモン以外の開拓民の「俺たちに女房がいないのに、あいつらは何人も嫁さんを持っていやがる」というやっかみ根性と結びつき、モルモン教徒で複数の妻を持つ者を狙い撃ち、逮捕するのが大いに流行ったのだ。もっともモルモン教徒の多くはブッチの家族のように一妻一夫だったが。

地下といっても穴を掘って本当に地下に潜り込むわけではなく、秘密の暗号文書で何時誰がどこに滞在し、どこへ移動するというように精巧な連絡網があり、それに沿って逃亡者をかくまい、移動させていた。ブッチの家も亡命者の隠れ家として利用されていた痕跡があり、ブッチも連絡員として、馬を飛ばして次の拠点へメッセージを運んでいた可能性が大いにあるというのだ。

このような事件が、後にブッチが法や社会的規約のうちではなく、善悪の間に自分独自の線を引く生き方をするようになる遠因になった、と考えられる。

*1: Beaver Countyの Milford村。
*2:雑貨屋の持ち主 Orson Peabodyはこの事件のためだけで、西部史に名を残す ことになった。
*3:マックスが働いていたSilver reef mineはノンモルモンの町で、流れ者が多く暴力と悪徳の町として知られていた。

-つづく


 

第10回:Butch Cassidy 運命の出会い


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