第2回:怪盗"PO8" その2
更新日2006/11/05
詩人の怪盗ブラック・バートが、犯行現場に残していった詩は……
I've labored long and hard for
bread
for honor and for riches
But on my corns too long you've tred
You fine haired son of Bitches
Black Bart
The PO8
Driver, give my respects to our friends, the other driver
But I really had a notion to hang my old disguise hat
on his weather eye
というようなもので、およそ詩心ない私でも、果たしてこれが詩と呼べるシロモノなのかどうか、大いに疑問に思う。
意訳すれば以下のようにでもなろうか……
俺はパンと名誉そして金のために働きづめだった、
だが、お前のような櫛を入れた頭のくそったれめに、
長いこと俺様を踏みつけたので、俺にタコができてしまった
俺はブラック・バート
それが、PO8だ
駅馬車の御者よ、俺の親愛の情をお前の同僚に伝えるがよい
しかし、俺はお前たちの機敏な目を俺の古ぼけた
ボロボロの帽子でふさいでやるだけだ
親愛なる、B.B.
ウエルファーゴ社の探偵も郡のシェリフも傍観したわけではない、追跡団を組織し、足跡を辿り、犯人逮捕に躍起になった。だが、足取りがどうにも掴めなかった。どうも詩人の怪盗ブラック・バートは空中を飛ぶと思われるほど、足がかりを全く残さずに逃亡しているのだ。
捜査グループには、一つの凝り固まった概念があった。どの町からも離れた土地での犯罪は、馬が必要絶対条件である。犯行現場まで身を運ぶにも、逃亡するにも馬しかない。従って馬の足跡を辿れば見つけられると思い込んでいたのだ。馬は人間よりかなり速いスピードで、しかも長距離移動できる。しかし、酷使すると潰れる。
追跡団は、馬が通ることのできる間道を広範囲にチェックし、リレーの馬を用意する可能性のある近隣の牧場を洗ったが、足がかりは全くつかめなかった。必ず仲間が、逃走用の馬を確保していると確信していたのだ。
ブラック・バートは正に神出鬼没で、下手な詩を現場に残し、犯行を重ねて行った。
1875年12月28日に、カルフォルニアのユバ郡(Yuba County)で駅馬車が襲われた。犯行現場に急襲した追跡団が見つけたのは、銃に見せかけていた木の棒だった。御者はライフルで脅されたと証言しているのだが、実はただの棒切れだったのだ。
1976年6月2日に、シスキユウ郡(Siskiyou County)での犯行も、例によってブラック・バートのトレードマークである慇懃な紳士的態度で終始した。
ウエルファーゴの探偵たちは、同じルートで北上する駅馬車には大金が積み込まれていたにもかかわらず、それを襲わず、南下する便を襲っているところから、情報網をもったプロ集団の仕業ではなく、アマチュアのシゴトではないかと焦点を移したが、それまでだった。まだ複数、少なくと3、4人のグループの犯行だと信じていたし、馬を使っていると思い込んでいた。
単独で、しかも徒歩で駅馬車を襲うのは、想像外のことだったのだ。
…-つづく
第3回:怪盗"PO8" その3