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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 2
 

第2回:ベラ・スター ~ マイラ・マベルの生い立ち

更新日2016/05/12

 


アウトローの生涯を語る時、彼、彼女を時代の申し子、言ってみれば時代の犠牲者として捉える者と、単に西部開拓時代への郷愁とロマンだけから観る者とに大別される。

ベラ・スターの場合は、彼女を"女性版のジェシー・ジェイムス"として語る本が多い。 

火付け役の出版社"リチャード・フォックス"(Richard K. Fox)が1889年に『Bella Starr, The Bandit Queen or Female Jasse James』というダイム小説を売り出し、ベラ・スターの名が世にしられるようになり、それ以降、マジメな研究から、西部大ロマン、義賊として盗賊、南北戦争の犠牲者と書き手の思い入れにより、ベラ・スターは妖怪変化のようにイメージを変えた。だが、生前、ベラの名を知る者は少なかった。

ベラ・スター自身は1889年の2月に殺されているから、フォックスの本を目にしていない。しかし、万が一、ベラがフォックスの本を読んでいたとしても、彼女はそんなダイム小説にどう書かれようが、三文新聞の種になろうが歯牙にかけなかったろう。彼女は世評に踊らされることもなく、世間の目など無視しただろう。無視できる神経の太さを持っていた。カラミティー・ジェーンとはまるで精神構造が違っていたと言ってよい。そんなところも、ベラがアウトローとしての資質を初めから十分持っていたアカシになるかもしれない。

ジョン・シーリーはなかなかのやり手だった。彼の親がミズーリー州の南西部、カーセージ(Carthage, Jasper County)近くに政府からもらった800エーカーの土地の権利を引き継ぎ、小麦、とうもろこし、豚、それに良い馬を繁殖させ、彼は土地では成功組みと言ってよいだろう。中小規模の小作農が多いミズーリーでは、800エーカーの農地は広大だと言ってよく、ジョンは奴隷を二人持つまでになっていた。

エリサは20歳になるかならないかの歳で、20歳年上のジョンと結婚した。当時の女性の常として、次々と子を産み、何人かは死に、何人かが育った。

10年おきに行われる国勢調査は今でも続いているが、西部の辺境でも記録が残っており、このアウトローシリーズでも随分利用させてもらった。

1850年の国勢調査では、シーリー家は家長のジョンが54歳、妻エリサが34歳とあり、この時点で子供は4人いた。3番目にマイラ(Myra Maybelle)の名が見える。彼女が後にベラ・スター、盗賊の女王と呼ばれるアウトローになる。この国勢調査に家族構成と一緒に財産の査定が附髄している。正確なものではないが、所有する土地、家屋の換算金額が載っているのだ。

それによると、ジョン・シーリー一家は600ドルの資産価値がある土地、家屋を所有していたことになる。他の農家の資産査定をみると、ほとんどが50ドル前後だから、この時代、この界隈の農夫としては資産家の部類に入る査定額だ。

そんな家庭で、1848年2月5日に、後のベラ・スター、マイラ・マベルは生まれた。家では彼女をメイと呼んでいた。その4年後、カラミティー・ジェーンは同じミズーリー州の北部の片田舎で生まれているが、両者は顔を合わせることはなかった。

ベラがどのような少女だったか、具体的な記録は何もない。彼女の死後、ダイム小説で名前が知られるようになってから、色のついた思い出を語る者が幾人か出てきたが、他の姉妹や他の娘と混同していたりして、ベラの少女期のイメージを形作ってくれるものではない。特別目立つ娘でもなく、皆の記憶に残るような事件も起こさず、この辺りの農家のどこにでもいる元気の良い少女だったのだろう。

父親のジョンは、野心家、企業家だった。彼は親から引き継いだ農地を分割して売り払い、ジャスパー郡の首都になったカーセージの町のど真ん中にホテルを建てている。1850年代のカーセージの人口は500人程度だったが、一応郡の首都であり、裁判所も設けられ、郡の政治都市(実際にはレンガ建ての建物は数軒しかなったが)の体裁を整えつつあった。田舎議会や裁判でカーセージに来て、宿泊する客を見込んでのことだろう。


カーセージ。南北戦争で壊滅的ダメージを受けたとはいえ、これほど特徴のない町も珍しい。
南北戦争前の町のキャッチフレーズは"西部で一番美しい町"だった。(上のポスター参照)


現在、唯一、醜悪だが豪勢な建物はディズニーランドにでもありそうな石造りの裁判所だ。
だが、これは南北戦争以降に建てられたものだ。

多少、小銭を掴んだとはいえ、農夫のジョンが農地を売り払ってホテル業に転身したのは、たいした決断力、行動力だと見てよい。アメリカ西部開拓時代だけでなく、未だに見られる傾向は、そのような決断力と一度決断したとなると即行動に移す力だ。それが西へ西へとアメリカを発展させた原動力になっている。腰が軽すぎる…とも言えるのだが…。

1860年の国勢調査では ジョン・シーリー一家は一番上の子が結婚して抜け、ベラが二番上になっている。そして二人子供が増えている。一番下の子、クラヴェンス(Cravens)が2歳とあるから、ジョン64歳の時に設けた子供だ。また、このクラヴェンスとその上のマンスフィールドの歳が6歳以上離れているので、記録にはないが、その間に死んだ子が二人はいたと思われる。当時の他の家族構成を見ると、結婚、セックス、妊娠、出産、それがどちらが枯れるまで延々と続くのが当たり前だった。

ジョンが経営するホテルは、当然、バー、レストランにもなっていた。いわば町のたまり場、情報センターだった。裏地には十分な広さの畑と果物の木があった。ホテルは家族総出で運営した。だから、少女から思春期のベラは、ポッと出の田舎育ちと言うより、田舎町のバー、サロンに親しんで育ったとみてよいだろう。

…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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