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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第8回:カルト・ケイト ~牛泥棒と決め付けられリンチへ

更新日2017/07/27

 

7月20日の午前中、ケイトはショショーニーインディアンの小屋へ、14歳のお手伝いボウヤ、ジョン・デコレイ(John L. DeCorey)を連れ、出かけていた。ケイトはインディアンのハンドクラフトにとても興味があり、貧しい中からヤリクリして小屋の飾り、ネックレスなどをショショーニーインディアンから購入している。それまで一番大きな買い物はサドルの下に敷く毛布だった。その日、ケイトは非常に小さいビーズを鹿皮に縫い付けたモカシンを購入している。

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ケイトがリンチに遭うその日の昼に買ったモカシン(ワイオミング州立博物館蔵)

ボスウェルら6人組は勇躍ケイトの牧場に乗り込んだ。
まずは彼女の牛を見渡し、真新しい“LU”ブランドが押されているのを見つけ、それだけで迷い牛、盗まれた牛にケイトが焼印を押したと判断し、フェンスポストを引き抜き、柵を壊し、ケイトの牛を柵の外へと解き放った。

この時、彼らはケイトが28頭の痩せ牛をジョン・クロウダーから購入したことを重々承知していたはずだ。痩せ牛は前の年の秋に購入しているし、ボスウェルはケイトの牧場から目と鼻の先の8マイルと離れていないところに家を構えているうえ、3、4度はケイトの牧場を訪れているから、ケイトがどんな牛を買い、増やしていたかは十分承知してはずだ。だが、“LU”ブランドの権利を買い、登録していたことを知らなかった可能性はある。というのは、春と呼んでいるが、春のラウンドアバウトが終わったのは19日で、ラウンドアバウトが終わって初めて焼印を押すことができるからだ。もちろん、ケイトには新しいブランド“LU”を登記したことを触れ回る義務はない。

はじめから、そうと信じ込んでいる者の目には現実が見えなくなることがママある。というより、6人組は明らかになんとしてでもケイトとジェイムスを吊るすと決めてかかっていたのだと思える。牛泥棒、“LU”ブランド云々などはこじつけで、結果に結びつかないヘリクツだと思う。

リンチ後の裁判で、ケイト所有の牛はいずれも所有権証、譲渡証のあるものばかりだと分かるのだが、血気に逸ったというか、頭に血とアルコールが回っていたリンチ組は、ケイトをなんとしてでも吊るすつもりだったのだろう。

6人組はケイトを探すまでもなく、彼女のほうが家に徒歩で帰ってくるのを見つけた。ケイトはジョン・デコレイ坊やとブラブラ歩いているところだった。ケイトは重装備の6人組が彼女の小屋、牧場を荒らしまくっているのを目にするや、400メートルほどの距離を全速力で駆けた。6人組はすでにバラ線フェンスを踏み倒し、ケイトの牛を追い放っていた。

ケイトはヒステリックに、「お前たち、一体何の権利があってこんなことをするんだ!」とでも叫んだことだろう。彼らは、「このバイタの牛泥棒が何をぬかすか」とハナからケイトの言うことに耳を貸さなかった。ケイトはまさか自分がリンチに遭うとは想像もしていなかっただろうが、事態が異常に緊迫していることを感じ取り、泣き喚くように、牛の権利書、譲渡証明などの書類は整っている…と、震えながら抗議しているが虚しいことだった。ケイトは銃口を突き付けられトム・サンの馬車に乗せられた。14歳のボウヤ、ジョン・デコレイは乱暴に、「ボウズ、そこから出てくるんじゃない」と、小屋に押し込まれた。

ところが、小屋にはもう一人、8歳になるジーン・クロワードという男の子が、ケイトが馬車に乗せられたのを見て、ジェイムスに知らせようと小屋から抜け出し、鞍の置いていない自分のポニーに跳び乗り走らせたのだ。それを目ざとく見つけたのはボスウェルだった。もとより子供が跨ったポニーと馬とでは勝負にならない。すぐにボスウェルは子馬に乗ったジーン坊やに追い付き、ジーン坊やをつまみ上げるようにポニーから乱暴に引き摺り降ろし、「ボウズ余計なことをするな…」とばかり、ジョン・デコレイ少年と一緒に小屋に押し込めている。 

この異常に勇気のあるケイト思いのジーン坊やは、ケイトとジェイムスが預かっていたフォスター(孤児など一時的に預かり養育するシステム)の少年だと思われる。ケイトには弱い者、少年、少女、インディアンに好かれていたし、とてもよく彼らの面倒をみていた。

6人組はケイトをバギー(1頭立ての馬車)に乗せ、ジェイムスの牧場と隣接した彼の店へ向かったのだ。ケイトにとっては縛り首への行進となる。

-…つづく

 

 

第9回:カトル・ケイト ~ジェイムスも一緒に連行される

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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