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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第16回:カルト・ケイト ~ジェイムスの甥、ラルフの死

更新日2017/09/21

 

ラルフがリンチ組に薬殺されたかどうか、判明しないままラルフの死を時間を追って検証してみる。これは前に書いたように、Gorge Hufsmithにある公聴録、H.B. Fetz とJ.N. Speerの証言から孫引き、再現すると次のようになろうか。

1889年(リンチのあった年)の4月に彼らはラルフと知り合いになった。それはラルフがスィートウォーターのジェイムスのところにやってきてから間もない頃だ。彼らがラルフの病状を知ったのは同じ年の8月15日のことで(リンチは7月20日)、ラルフは馬に跨り、フェッツの家に看病を求めてやってきた時のことだった。ラルフは24日までフェッツの小屋に留まり、そこで死んだ。

フェッツとスピアーはこの小屋を共有していたのだろうか。当時の開拓民の小屋は一部屋だけの狭いキャビンだったから、病気のラルフはスピアーのベッドにスピアーと一緒に寝た。男同士が一つベッドで寝るのは珍しいことではなく、リンカーンも大統領になる前、巡回裁判のため地方を回った時、再三小屋を提供してくれた主と一緒に一つベッドで夜を過ごしている。

その時、ラルフはすでに衰弱していたものの、危機感を抱かせるほどではなかった。ラルフの病状が悪化し、背中、腰の鈍痛を訴え始めたのは18日になってからのことで、19日にフェッツは医者を呼ぶためジョニーという若者をカスパーの町に送っている。

医師ハイネスは翌20日の朝7時頃にやってきて、21日の朝10時までラルフの元に留まった。鎮痛剤のせいだろうか、ラルフの病状は小康状態に入り、激痛を訴えることがなくなった。病状が悪化したのは金曜日23日になってからのことで、高熱にうなされ、大量の汗をかき、腿の付け根、睾丸の周囲が腫れ上がってきた。翌、24日午前11時前後にラルフは息を引き取った。

ラルフ毒殺の要因になったと言われているウイスキーはラルフが彼らの小屋にホウホウの態でやってきた18日、フェッツが隣のボブ・コーナーから貰ってきたもので、当時の民間療法でウイスキーなどの強いアルコールが気付けになると信じられていたからだ。ウイスキーをラルフに与えたのは医師ハイネスの判断ではなかった。フェッツとスピアーはラルフに少量ずつ飲ませたと証言している。

このフェッツとスピアーの証言は検視官ベネットの前でなされ、供述書は客観的事実のみを述べ、この両者がジェイムスとどういう関係にあったのか、リンチ組に共感していたのかという心情的な感覚は書かれていない。だが、ラルフが頼って身を寄せるほどだから、フェッツとスピアーを余程信用していたことは間違いないだろう。彼らは、演繹すればリンチに遭ったジェイムスに同情的だったと見てよいと思う。

ラルフがフェッツの小屋に来た時、フェッツがウイスキーを借りにコーナーのところに行っていることから見て、フェッツとスピアーは隣人のボブ・コーナーと懇意にしていたことも疑いようがない。当然、リンチに架けられたジェイムスの甥っ子ラルフが裁判で鍵を握る重要証人になることを彼らは知っていただろうし、ボブ・コーナーがジェイムスをリンチに架けたことも承知の上で、ラルフを助けるためのウイスキーをコーナーに借りに行ったとみてよい。フェッツとスピアーは、死んだラルフとリンチ組のボブ・コーナーの両者とも懇意にしていたとみるよりほかない。

8月26日、ラルフは埋葬された。その検死をしたのもベネットだった。ベネットは山岳熱病のための死と判断している。だが葬儀に参列した多くは、ラルフの死に顔が異常に腫れあがり、目の周囲と唇がどす黒く染まっているのを見て、ラルフは毒殺されたに違いないと語っている。少なくとも、流行った熱病の死者の顔ではなかったと言うのだ。このような談話は誇張されやすい。第一、毒殺死体を見た経験がある者がどれほどいたのだろうか、おそらく皆無だったろう。

コーナーが与えたウイスキーが怪しいという浮説が流れたのは、ラルフの葬儀後、埋葬の後、裁判近くなってからのことだ。ベネットは当然のことだが、毒物鑑定のためウイスキーを化学分析に送っているが、ウイスキーからは毒物は発見されていない。暴力が支配的だった西部開拓地で毒物による暗殺は非常に少ない。腰に下げた拳銃があるし、高性能なライフルも出回っており、開拓民なら小屋に一丁や二丁の銃を持っていた。人を殺すのに銃を使えば済むことだし、しかも強力な毒物が混入している農薬類は出回っていなかった。

しかし奇妙なことに、医師が帰った後、リンチ組の一人ボブ・コーナーがフェッツの小屋に居座っているのだ。しかも、ラルフが息を引き取った時、偶然なのか、看取ったのはこのボブ・コーナーただ一人で、フェッツもスピアーも何らかの用で小屋を離れていた間のことだった。自分を憎み切っている男、裁判で証人台に立ち、自分を殺人罪で有罪にしようとしている男、ラルフをボブ・コーナーが見舞い、付き添うのはなんとしても不自然な行為だ。

状況がどうであれ、ダブルリンチ裁判は一番重要な証人を失ったのだ。また、たとえコーナーがラルフを殺したことが証明されたにしろ、それはラルフ殺害という別の事件になり、ダブルリンチ事件の証人がいなくなったことに変わりない。

もう二人、ケイトの牧場の手伝いをしていた少年たちの身に危険が及ぶと思うのは当然で、検察側は少年、ジーン・クローダーとジョン・デロリーを軍の保護下に置く手続きを取った。 アメリカの陪審員制の刑事裁判で現在に至るまで肝心要は、証人の確保と彼らの安全、命を守ることだ。マフィアやギャングが証人に、お前の家族を殺す、娘、妻を薬漬にして売り飛ばすなど脅しを掛け、結果、証人台に立つ人が誰もおらず、無罪放免になっている例に事欠かない。二人の少年が重要な鍵を握る証人になることは、検察側もリンチ組も重々知り抜いていたから、軍の保護下に置いたのだろう。

14歳のジョン・デロリーは親類を頼ってコロラド州のスティームボートスプリングへ逃れ、ジーン・クローダーはカスパーの駐屯地に身を置いた。

証人として誰を呼ぶかは公判の席で相手方は初めて知る。互いに重要証人を極秘に探し、効果的に爆弾を落とそうとするのは、映画、テレビの裁判、刑事モノで観る通りだ。今から振り返ると、さして重要な証人だとも思えないのだが、検察側はジョン・グラナーという23歳になるホームステダー(政府から160エーカーの土地を譲り受けた農夫)がケイトの牧場近くのスプリットロックに農場を持っており、ボスウェルがジェイムスとケイトを吊るすため全員集合をかけたことを証言する意思を固めていた。

もう一人、ボスウェルの下で働いていた牧童ジョン・ザップという男がリンチ組が集合した時、リンチに反対し、ボスウェルにその場でクビになっている。このジョン・ザップを証人として呼ぶことにしていた。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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