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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第17回:カルト・ケイト ~証人フランク・ブキャナンの失踪

更新日2017/09/28

 

検死官ベネットはラルフの急死をうさん臭く感じていた。彼は自分の職務に忠実だったといえる。彼がラルフの死因に不信を抱いていたのは確かで、8月26日にラルフが埋葬される前に、ラルフの胃を切取り、密閉したガラス容器に入れ、化学分析を依頼しているのだ。

ボブ・コーナーのウイスキーから毒物は検出されなかったが、他の経口物で毒殺された可能性があるとみたのだ。ベネット検死官は、ハイネス医師がラルフの死に関与していたのではないかと疑っていたと思われるフシがある。 当時の化学分析、毒物検査は、まして西部では、非常に原始的なものだった。検出されたのはストライシン(Strychnine)だけで、しかも極少量だった。ストライシンは消毒液で、恐らく現代の台所やトイレ掃除の後で検査をすれば検出される程度の量だった。それが当時の分析化学のレベルではという条件が付くにしろ、ベネットの意図は逆にラルフが薬殺されなかったことを証明することになってしまったのだ。

シャイアンに巣食う牧畜男爵たちの政治力を知る者は、彼らが毒物検査を行った科学者に圧力をかけるくらいのことは当然やりかねないとコメントしているが、証拠があるわけではない。そして、ラルフが息を引き取った時、どのくらいの時間に渡りボブ・コーナーがラルフの脇に居座っていたかはっきりしないのだが、ボブ・コーナーが衰弱し切ったラルフの口元に枕か布切れを当て、窒息死させる時間は十分以上あったはずだ…という推論は当時から根強くあった。なにせ、リンチ組は牧畜男爵たちにバックアップされ、邪魔なケイトとジェイムス二人を公然と吊るしたくらいだから、今度は自分の身を守るために何をやっても不思議ではない…というのだが、どれも状況証拠のみの感情論ではある。

もう一人のキーパーソンはフランク・ブキャナンだ。フランク・ブキャナンは6人組がケイトとジェイムスを馬車に押し込み犯行現場に移動している間、彼らを追跡し、犯行現場でリンチに架けようとている時、銃撃戦を仕掛けている。銃撃戦はケイトとジェイムスが吊るされた大きなコットンウッド近くで起こった。確かに、吊るした現場そのものは目にしなかったものの、現場近くで6人組の一人、ジョン・ダブリンがフランク・ブキャナンの銃弾を尻に受け負傷したことはすでに述べた。

ここでまた奇妙で、不可解なことが起こっている。最重要証人であるフランク・ブキャナンの身柄を、判事は牧畜男爵の牙城であるシャイアンに移しているのだ。フランクが6人組に銃撃戦を挑み、ジョン・ダブリンを負傷させた結果、逮捕され、500ドルの保釈金が言い渡されたのだが、それを払うことができず拘留されたままだったからだ。このリンチ事件を真っ先にシェリフに知らせたフランク・ブキャナン自身がリンチを阻もうとし、リンチ組の一人、ジョン・ダブリンを負傷させた罪で逮捕、拘留されているのだ。

フランクが所有している小さな牧場は、渦中のスィートウォーター近くにあり、リンチ組やそのシンパに狙撃されやすいということはある。しかし、なぜ判事はフランクの身柄を二人の少年たちのように軍の管轄下、基地の中に移さなかったのだろうか。牧畜男爵の牙城であるシャイアンに滞在すれば、フランクの命が危なくなるだけでなく、牧畜男爵がありとあらゆる脅し、贈賄、政治的圧力をかけやすくなるのは火を見るより明らかだ。そして、事実そのようになってしまったのだが…。

フランク・ブキャナンは、裁判に証人として出頭すると誓約し、カーボン郡内にあるダナへ週末帰省を許され、出所し、そのまま帰らなかったのだ。ダナはユニオン・パシフィック鉄道が通っており、まず、確実に列車に乗ってそのままズラかったとみられた。

リンチ組、牧畜男爵がフランク・ブキャナンにどのような圧力をかけたのか、それともフランクに彼の朋友ジェイムスのリンチを法廷で証言しないことを選ばせるほど、オイシイ餌を男爵たちが差し出したのかは分からない。しかし、後年、ビリー・ウォーカー(Billy Walker)という男爵サイドの弁護士が『The Longest Rope』(最長のロープ;ロープには罠の意味もある)という自伝的読み物の中で、ブキャナンは相当な額のお金と逃走のための準備、手助けを受けることに同意したというのだ。

リンチ組にとって最悪の事態は、一旦逃げたフランク・ブキャナンが再逮捕され、リンチ裁判の証言に立つことだけでなく、リンチ組が彼の逃走をセットアップし、お金でフランクを買ったことがバレルことだ。フランク・ブキャナンを掻き消すように逃がす計画は綿密に立てられたに違いない。そしてそれは成功した。命懸けでジェイムスとケイトを救おうとした男が金の力に屈したのだ。フランク・ブキャナンは歴史から消えたと思われた。

フランク・ブキャナンは青かった。牧畜男爵グループのマフィア的な組織、必要とあれば人を殺すことなど、蚊を叩き潰すほどにしか思っていない彼らの実態を理解していなかった。リンチの証言を阻むため、彼を逃亡させた組織が彼を生かしておくはずがないことにまで神経が回らなかったのだ。

事件後29年経ってからの1920年にカンサスシティーに住む老嬢が天井裏で鉛筆書きの手記を見付けた。この日記はW. R. Huntが1890年から1920年まで書いたもので、ハントはリンチ事件があった当時、シカゴの新聞『インター・オーシャン』のリポーターをしていた。その手記がマルコム・モンクライフ(Malcolm Moncreiff)という裕福な牧場主の手に渡り、『スィートウォーターの牛泥棒(The Sweetwater Rustler)』 という本を書いた。そのおかげで、ハントの手記が世に出、その後のフランク・ブキャナンのことを、少しは知ることができる。

1890年、ブキャナンが逃げてから9ヵ月ほど経った7月1日に、彼が隠者のように住んでいたラトルスネイク連山で突然狙撃された。その小屋は罠師が季節的に使う掘っ建て小屋で、そこに隠れていれば安全だ、お金もそこで渡すと言い含められていたのだろう。幸い弾は逸れて馬に当たったが、彼の命を奪おうとしたことは確かだ。手記を書いたハントは狙撃されたフランクには会っていないが、その時、小屋に留まっていた罠師に会い、インタヴューしている。

罠師によれば、その後、フランク・ブキャナンは憔悴し切っており、魂を抜かれた形骸のようだったと述べている。馬を失ったフランクはライフル、拳銃も持っておらず、文字通り身ひとつだった。この罠師が使う小屋に行きさえすれば、そこには逃亡用の物資、現金を届けるという牧畜男爵の甘言を信じていたところ、飛んできたのは自分を殺すための弾丸だったのだ。

-…つづく

 

 

第18回:カルト・ケイト ~ブキャナン殺害と裁判の行方

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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